研究概要 |
ウイルス感染症に対する化学療法では、ウイルスの複製を阻害させる核酸類似体が使用されている場合がある。中でも、ヌクレオシドの構造をベースにした核酸類似体が高頻度で使用されている。一部のバクテリオファージ(ファージ)は、様々な修飾された核酸塩基を有していると期待される。新規の核酸誘導体は、抗ウイルス薬のリソースになりうる可能性を十分有している。それゆえ、本申請研究では、ファージの新規ヌクレオシドの捜索を行い、抗ウイルス作用の検討を目的とした。 初年度(平成25年度)では、酵素を使用しファージ核酸をヌクレオシドへ分解し、LC―MS(ナノ液体クロマトグラフィー・精密質量分析器)による分解ヌクレオシドを定量的に測定可能な分析方法を立ち上げた。数種類のファージ核酸を分析した結果、ユニークなヌクレオシド構造は認められなかった。しかしながら、数種類の同属に属するファージDNAの分析を行ったところ、ヌクレオシドの種類と遺伝学的な分類方法で相関性がみられることが明らかとなった。これを、論文に報告した(Uchiyama J, et al. (2012) Arch Virol. 157(8):1587-92.)次年度(平成26年度)は、ファージのヌクレオシドの測定により、ファージ2株でチミンの代わりにデオキシウラシル(dU)を有するファージを発見した。これら、dUを有するゲノムDNAに有するファージの発見を論文へ報告した(Uchiyama J, et al. 2014 ISME J. in press.)。 これまでの研究成果は、論文業績は出ているものの、本研究が目標とする新規核酸誘導体の発見とその評価につながるものではない。その理由の一つが、平成25年度、平成26年度とも機器の故障、大学業務等があり、順調に研究が遂行可能な状況になかったことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ファージゲノム核酸のヌクレオシド分析を行った。まず、ファージ核酸の構成成分の測定方法を立ち上げた。LC-MS(ナノ液体クロマトグラフィー・精密質量分析器)で標準ヌクレオシドの分離・分析を行い、測定条件の設定を行った。次に、ファージゲノム核酸のヌクレオシド分析を行った。ファージ6株(Enterococcus phage φEF24C、Staphylococccus phage K、Staphylococcus phage S6、Escherichia coli phage lambda、Bacillus phage PBS1、Serratia phage KSP100)のゲノム核酸を抽出した。ゲノム核酸を酵素によりヌクレオシドへ分解し、LC-MSで測定を行った。その結果、4種類のファージ(phage φEF24C、phage K、phage KSP100、phage lambda)では、通常のDNA(A, T, G, C)であった。残りの2種類(phage S6、phage PBS1)は、dUを有するDNA(A, dU, G, C)であることが明らかとなった。 以上の研究成果を論文報告した。研究責任者は、これらの結果を分類学的・分子生物学的に考察し、ウイルス分類学での研究成果として発表した(Archive of Virology, 157(8):1587-1592, 2012)。また、チミンの代替えとして、ウラシルを二重鎖DNAの塩基にdUを保有する生物を発見したことは、生命科学上非常に意義のある結果と、他の分子生物学・細菌学・ウイルス学の研究者らからのコメントを頂いた。それゆえ、本成果に関して、論文へ報告した(Uchiyama J, et al. 2014 ISME J. in press.)。 これまでの研究成果は、論文業績は出ているものの、本研究が目標とする新規核酸誘導体の発見とその評価につながるものではない。それゆえ、これまでの研究達成度は、十分といえない。その理由の一つが、平成25年度、平成26年度とも機器の故障、大学業務等があり、順調に研究が遂行可能な状況になかったことが考えられる。
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