研究課題/領域番号 |
24791031
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
青木 学 熊本保健科学大学, 保健科学部, 講師 (70389542)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | HIV / 薬剤耐性 |
研究概要 |
TPVは抗HIVプロテアーゼ阻害剤(PI)であり、多剤耐性HIV変異体にも強力な活性を発揮する。またTPVは、ホモ二量体を形成し活性を発揮するHIVプロテアーゼ(PR)の酵素活性阻止能だけではなく、二量体形成阻止(PDI)能をも有するがその機構は不明である。本研究ではTPVのPDI機構を解明すると共に創薬への応用を目指す。 まず試験管内で高度TPV耐性HIV変異体を誘導、PRのアミノ酸配列の解析より、L24M、L33F、I54V、V82Tの4つのアミノ酸置換を同定した。Fluorescence resonance energy transferを応用した測定系により、4つの変異のTPV PDI活性への影響を解析したところ、L24MとL33Iは単一でTPVのPDI活性を喪失させるが、I54VとV82Tは影響しなかった。このことからL24MとL33IはTPVのPDI活性に、I54VやV82Tは酵素活性阻止に関与していることが示唆された。TPVと同様にPDI活性を有するdarunavir(DRV)は、L24MおよびL33Iを導入したHIVの二量体形成を阻止することから、DRVとTPVのPDI機構が異なるか、もしくはDRVのPDI活性がより強力であることが示唆された。L33IもしくはI54V/V82Tを野生型HIVNL4-3に導入したウイルス(HIVNL4-3L33I およびHIVNL4-3I54V/V82T)を用いて試験管内でTPV耐性を再度誘導すると、HIVNL4-3I54V/V82TはTPVのPDI活性を喪失させるE34Dのアミノ酸置換を獲得し、HIVNL4-3L33Iよりも早期にTPVに耐性となった。以上の結果より、TPVはHIVプロテアーゼのPDI活性と酵素活性阻止の2活性有するものの、PDI能よりも酵素活性阻止能がTPVの抗HIV活性により重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、試験管内で誘導された高度tipranavir(TPV)耐性HIV変異体より同定されるHIVプロテアーゼ領域(PR)のアミノ酸置換およびTPV治療を受けたHIV感染者より新規に同定、報告されるTPV耐性関連アミノ酸置換について、TPVの二量体阻止活性への影響、またウイルス複製やTPVを含む既存の薬剤への感受性などウイルス学的解析を行なうことを目的とした。これまでに複数個のTPVの二量体形成阻止活性を喪失させるアミノ酸置換を同定すると共に、それらのアミノ酸置換がPRの3つの領域に位置することを解明した。またTPVや既存のプロテアーゼ阻害剤に対する感受性を測定すると共に、試験管内でのTPV耐性獲得への影響についても解析を行ない報告した(Aoki M et al. Journal of Virology. 86:13384-96, 2012)。また一方で、TPVよりも約100倍低濃度でHIVプロテアーゼの二量体形成を阻止する薬剤GRL-0519を同定し、この薬剤に対するウイルス学的解析を行った(Amano M, Aoki M et al, Antimicrobial Agents and Chemotherapy. 57:2036-46, 2013)。以上より、本研究開始当初に予定した研究内容を十分に達成出来た判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Darunavir(DRV)やTPVなど一連のHIVプロテアーゼ(PR)の二量体形成阻止(PDI)活性を有する化合物は、CFPもしくはYFP遺伝子をPRのC末端に導入した組換えウイルスを細胞内で発現させ、FRETを測定することよりその活性を判定している。これまでにDRVは二量体を形成したPRを引き離す作用は認められていないことから、二量体を形成する前のPRモノマーに結合し、二量体形成を阻害しているもと推測されているが、実際にそのような低分子化合物がPRモノマーに結合するかどうかについては未だ知られていない。このことから、二量体形成に重要とされるPR C末端の欠如変異体等のタンパク質を大腸菌内で発現・精製し、DRVやTPVとの結合解析に用いる。結合解析には、Biacore systemによる分子間相互作用解析などを用い、野生型PRやTPVのPDI活性の喪失に関連するアミノ酸置換を導入した変異体についても同様に解析し、総合的にTPVのPRモノマーへの結合部位を同定する。またTPV以外のPDI活性を有する化合物についても同様に解析し、TPVとの結合部位や強度の相違等を詳細に検討する。またタンパク質を変性させた状態でTPVを混ぜ、その後精製を試み結合解析に用いる事によりどの段階でTPVがPRモノマーに結合しているのかを確認する。結合を確認後は、PRモノマーとTPVの結晶構造解析もしくはモデリングにより結合態様を同定する。PRモノマー全体の構造で結晶化が困難である場合は、結合解析によるデータを基にtruncated のPRモノマーを作成し結晶化を試みる。 結合解析や結晶構造解析から得られるデータは、低分子化合物によるHIVプロテアーゼ二量体形成阻害機構を解明すると共に、更に特異的且つ強力にHIVプロテアーゼ 二量体形成を阻害する化合物の開発に繋がるものと期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費については(1)酵素:PCR および塩基配列解析に伴うポリメラーゼ、感染性組換えHIV-1クローンを作成するための制限酵素などの酵素類、(2)試薬:タンパク質を発現、精製に必要な試薬およびHIV の培養に伴いウイルス量を測定するためのELISAキット、(3)細胞培養用の培地、(4)プラスチック器具類:ウイルス感染検体を処理するためのディスポーザブルピペット、チップおよび細胞、大腸菌培養用フラスコ等を計上した。また本研究の結果を国内外での学会で発表するための旅費および論文投稿を行うため経費も計上している。
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