研究課題
Tipranavir(TPV)は、抗HIV-1プロテアーゼ阻害剤(PI)であり、多剤耐性HIV変異体にも強力な活性を発揮することが知られている。またTPVは、従来のPIが有するホモ二量体を形成し活性を発揮するHIVプロテアーゼ(PR)の酵素活性を阻止するだけではなく、二量体形成阻止(PDI)活性をも有するがその機構は未だ不明である。本研究ではTPVの二量体形成阻止機構を解明すると共により強力な二量体形成阻止活性を有する薬剤の開発を目指す。試験管内で誘導したTPV耐性HIV変異体を解析し、TPV耐性に関与する4つのアミノ酸置換(L24M、L33I、I54V、V82T)を同定した。Fluorescence resonance energy transfer(FRET)を応用した測定系により、L24MとL33Iは単一でTPVのPDI活性を喪失させるが、I54VとV82Tは影響しないことを確認、報告した(Aoki M et al. Journal of Virology. 86:13384-96, 2012)。またPRはGag-Pol前駆体の一部として細胞内でHIV遺伝子より転写・翻訳され、auto-proteolytic processingにより前駆体タンパク質から切断、成熟PRとなることが知られている。そこで、PRのNおよびC末端に前駆体タンパク質の一部を結合させたタンパク質(TFR-PR)を発現・精製し、electrospray ionization mass spectrometry(ESI-MS)を用いてTPVとの結合解析を行うと、TPVはこのTFR-PRのモノマーとダイマーの両方に結合することが確認された。この結果より、TPVはPRが二量体を形成する前のPR前駆体モノマーに結合し、二量体形成を阻止している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
試験管内で誘導したtipranavir(TPV)耐性HIV変異体の解析より、TPVの酵素活性阻止能と二量体形成阻止能を喪失させるアミノ酸置換を同定し報告した(Aoki M et al. Journal of Virology. 86:13384-96, 2012)。またTPVと同様に二量体形成阻止活性を有するdarunavir(DRV)は、二量体を形成した成熟HIVプロテアーゼ(PR)を引き離す作用は見られていないことから、プロテアーゼモノマーに結合し二量体形成を阻止する可能性が考えられており、TPVも同様の機構で二量体形成を阻害していると思われる。しかしTPVやDRVの二量体形成阻止のメカニズムはこれまでに明らかにされていない。PRはGag-Pol前駆体の一部として細胞内で転写・翻訳され、auto-proteolytic processingにより前駆体タンパク質より切断、成熟PRとなることが知られていることから、PRのNおよびC末端に前駆体タンパク質の一部を結合させたタンパク質(TFR-PR)を発現・精製し、electrospray ionization mass spectrometry(ESI-MS)を用いてTPVとの結合解析を行うと、TPVはこのTFR-PRのモノマーとダイマーの両方に結合することが確認された。このことからTPVは、PRが二量体を形成する前のPR前駆体モノマーに結合することにより、二量体形成を阻害する可能性が示唆された。これまでの研究より、TPVの二量体形成阻止機構を解明すると共に、TPV耐性HIV変異体を解析し、二量体形成阻止に関与するアミノ酸置換を同定出来た。以上より、本研究は概ね順調に進展しているものと思われる。
これまでの研究より、tipranavir(TPV)はHIVプロテアーゼ(PR)前駆体のモノマーに結合し、二量体形成を阻止していると考えられるが、PR前駆体モノマーへの結合は二量体を形成した成熟PRへの結合とは異なることが想定される。そこでTPVのPR前駆体モノマーへの結合態様について、結晶構造解析もしくはモデリングにより同定する。PRモノマーの結晶構造解析は未だなされていないことから、PRモノマー全体の構造で結晶化が困難である場合は、これまでに蓄積させているTPV耐性関連変異でTPVの二量体形成阻止(PDI)活性を喪失させるアミノ酸置換の解析データを基にtruncated のPRモノマーを作成し結晶化を試みる。またTPVと同様にPDI活性を有するdarunavir(DRV)は、PDI活性の喪失に4つのアミノ酸置換を必要とすることが知られていることから、TPVとDRVのPDI活性は異なることが考えられる。そこでDRVとTPVのPR前駆体モノマーへの結合態様の違い、更には二量体形成阻止メカニズムの相違点を明らかにする。結合解析や結晶構造解析から得られるデータは、低分子化合物によるHIVプロテアーゼ二量体形成阻害機構を解明すると共に、更に特異的且つ強力にHIVプロテアーゼ二量体形成を阻害する化合物の開発に繋がるものと期待される。
前年度までに購入した試薬等を当該年度も使用して研究を目的通り滞りなく進めることが可能であった。また予定していた海外の国際学会への参加を見送ることになったことによる。消耗品費については(1)酵素:PCR および塩基配列解析に伴うポリメラーゼ、組換えHIV-1プロテアーゼ変異体を作成するための制限酵素などの酵素類、(2)試薬:タンパク質を発現、精製に必要な試薬、HIV の培養に伴いウイルス量を測定するためのELISAキット、細胞培養用の培地、(4)プラスチック器具類:ウイルス感染検体を処理するためのディスポーザブルピペットおよび細胞、大腸菌培養用フラスコ等を計上した。本研究の最終的な実験結果は国内外での学会発表および論文投稿を行うためその費用も予定している。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Antiviral Therapy
巻: 19 ページ: 179-89
10.3851/IMP2697.
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
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