研究課題
若手研究(B)
シクロオキシゲナーゼ(cox)阻害剤は、哺乳類動物において、coxを阻害することでPGE2等の炎症性物質の産生を抑制する化合物の総称である。真菌にはcoxに相当する分子の存在は確認されていないが、これまでの我々の検討の結果、cox阻害剤を抗真菌薬と併用すると、カンジダ属真菌Candida albicans(C. albicans)に対する抗真菌薬の作用が8倍程度弱まることを発見した。そこで、cox阻害剤が抗真菌薬抵抗性を誘導するメカニズムを解明すれば、新たな抗真菌薬開発の糸口になると考え、検討を行った。1.C. albicansにおけるcox阻害剤の分子学的作用機序の解明。cox阻害剤のどの構造が抗真菌薬抵抗性の誘導に関係しているかを検討した。また、PGE2添加によっても、抗真菌薬抵抗性を誘導したことから、cox阻害活性自体が抗真菌薬抵抗性を誘導するのではないことを明らかにした。cox阻害剤添加時の、細胞膜の変化を薄層クロマトグラフィーにより検討した。cox阻害剤を加えても、細胞膜エルゴステロールは変化しないことが明らかとなった。また、抗真菌薬耐性に関連すると考えられる複数の遺伝子(ERG3, ERG9, ERG11, CDR1, CDR2)について、cox阻害剤添加時の遺伝子発現をリアルタイムPCRにより測定した。ERG遺伝子(エルゴステロール合成遺伝子)には変化がなかったが、CDR1(排出ポンプ)は過剰に発現しており、CDR1の誘導が、抗真菌薬抵抗性の誘導に関連していることが示唆された。cox阻害剤の標的分子は、まだ明らかに出来ていないが、CDR1を誘導するカスケードの上流に標的がある可能性を考慮し、今後検討を行う。2.作用機序を応用した新規治療開発 現在、抗真菌薬の作用を向上させる併用薬について、スクリーニングの結果から複数の候補化合物について検討中である。
2: おおむね順調に進展している
1.C. albicansにおけるcox阻害剤の分子学的作用機序の解明。cox阻害剤のどの構造が抗真菌薬抵抗性の誘導に関係しているかを検討するため、cox阻害剤の構造の一部を欠損する化合物を用いた実験を行った。その結果、抗真菌薬抵抗性の誘導に関係する構造が絞られた。cox阻害剤は元々、PGE2の産生を抑制する活性を有するが、抗真菌薬抵抗性の誘導には関係しないことが確認された。このことから、元来のPGE2産生抑制以外の作用機序が、抗真菌薬抵抗性の誘導に関与していることが示され、今後の検討課題となったが、おおむね予定通りに進捗している。メタボロームについては、薄層クロマトグラフィーを行い、cox阻害剤は細胞膜エルゴステロールの生合成には影響しないことが示唆された。高速液体クロマトグラフィーによる確認も検討しているが、当該年度の進捗としてはおおむね予定通りである。トランスクリプトームについては、5遺伝子について検討を行い、positiveなデータも得られた。今後は、検討する遺伝子数を追加する必要があるが、おおむね予定通り進捗している。2.作用機序を応用した新規治療開発。検討段階ではあるが、候補化合物が絞られてきた。当該年度の進捗としては、おおむね予定通りである。
1.C. albicansにおけるcox阻害剤の分子学的作用機序の解明。構造活性相関については、抗真菌薬抵抗性の誘導に関係する構造が絞られたため、さらに類似した構造を有する化合物を追加して検討を行う。PGE2産生抑制作用を有する他の化合物についても検討を行い、cox阻害活性と抗真菌薬抵抗性の誘導との関係をさらに確認する。また、PGE2産生抑制作用以外のメカニズムの解明を目指す。メタボロームについては、細胞膜成分の高速液体クロマトグラフィーによる確認や細胞壁成分の解析も検討している。トランスクリプトームについては、positiveなデータの再確認をしつつ、遺伝子数を追加して検討する。2.作用機序を応用した新規治療開発。1で解明された作用機序を応用した新規治療薬の開発とともに、スクリーニングの結果から得られた抗真菌薬の作用を向上させる併用薬について、複数の候補化合物の併用効果を確認する。
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