研究概要 |
【背景】ウイルス感染は腎炎症候群の悪化や発症の機転となり得る。私どもは,これまで培養メサンギウム細胞を用いた基礎実験から,Toll-like receptor 3 (TLR3)を起点としinterferon (IFN)-β/retinoic acid inducible-gene I (RIG-I)を介してfractalkine (FKN),monocyte chemoattactant protein I (MCP-1)などの炎症関連分子群が誘導されることを報告してきた。これらの成果を踏まえて,腎炎患者から得られた尿検体を用いた検討を行った。【方法】IgA腎症 (IgAN) ,紫斑病性腎炎 (PN)患者から得られた尿沈渣細胞を用いて上記の機能分子群の mRNA測定を行い疾患病勢との関わりを検討した。次に,一部の代表的症例から得られた尿沈渣をマイクロアレイにより網羅的なmRNA発現の解析を行った。【結果】1). IgAN 3例,PN 2例,非炎症性腎疾患 2例でFKNとMCP-1について尿沈渣での mRNA発現と尿上清でのタンパクの発現を同時に測定したが,検討数が少なかったため有意な相関は確認されなかった。2). 代表的症例の尿沈渣細胞を用いマイクロアレイにより炎症関連分子群発現の傾向を解析した。非炎症性疾患群とIgANの比較では,これまでの実験で発現が高値であった分子について,T-bet 1.41x,RIG-I 0.5x,FKN 1.25x,MCP-1 0.99xであった。この他にFibronectin 1, Myosin XVIIIB, Ret finger protein-like 4Aなどの発現が高値であった。PNでは,T-bet 2.20x,RIG-I 0.39x,FKN 0.31x,MCP-1 0.21xであった。Girdin, Sperm protein associated with the nucleus, CC chemokine receptor type 2などの発現が高値であった。【まとめ】尿沈渣に発現するウイルス感染で誘導されるFKNに代表される炎症関連分子群 mRNA発現の測定は,将来的に腎疾患の非侵襲的な病勢評価につながる候補となる可能性が示唆された。尿沈渣中には多彩な分子群を様々なレベルで発現しており,IgA免疫複合体腎炎間や病期によりその発現は異なる可能性が高い。
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