研究課題/領域番号 |
24791055
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川田 潤一 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (20532831)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ウイルス感染症 / 若年性特発性関節炎 / 生物学的製剤 |
研究概要 |
抗インターロイキン6受容体抗体(トシリズマブ)などの生物学的製剤の使用が、ウイルスに対する免疫応答に与える影響を明らかにするため、生物学的製剤による治療が行われている若年性特発性関節炎の患者において、Epstein-Barrウイルス(EBV)などのヘルペスウイルス属の再活性化や関連疾患発症の有無についての検討を行った。また、トシリズマブによる治療中の患者が、ウイルス感染症に罹患した際の臨床的特徴についての検討を行った。 トシリズマブ使用中の患者10名においてEBV、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の再活性化の有無を定量PCRにより解析した。トシリズマブ使用中の患者において、EBV、HHV-6はしばしば検出され、免疫抑制による再活性化の可能性が示唆された。現在までのところ、いずれの症例も無症候性であるが、慎重な経過観察が必要と考えられた。 また、トシリズマブによる治療中にEBVの初感染をきたした例を複数例経験した。いずれの症例もEBV感染は重症化することなく軽快したが、一部の症例では血液中のEBV量の高値が遷延しており、EBVに対する免疫応答の異常が示唆された。一方で、EBV感染により、若年性特発性関節炎でみられていた関節炎が軽快した例を経験した。それらの患者でのサイトカインの動態を検討したところ、EBV感染に対する免疫応答が、関節炎の抑制に関与していることが示唆された。 さらに、トシリズマブ使用中の患者がインフルエンザに罹患した際の臨床的な特徴についても解析を行った。トシリズマブ使用中は、インフルエンザの臨床症状は軽微に終わるとことが多かったが、白血球、血小板減少が高頻度に観察された。トシリズマブ使用中は、感染症罹患時の臨床症状が目立たなくなり、診断が困難であるが、これらの知見はトシリズマブ使用下でのウイルス感染の早期診断に有用と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究の対象である、生物学的製剤によって治療を行っている若年性特発性関節炎患者は順調に蓄積され、EBV、CMV、HHV-6のウイルス量のモニタリングを経時的に行うことができた。現在までのところ、EBVによるリンパ増殖症や、CMVによる間質性肺炎等、ウイルスの再活性化による重篤な症状を呈した患者はいないが、複数の症例で、EBVやHHV-6が血液中から検出されており、当初予測されたように、ウイルスの再活性化が示唆された。これらのことは、生物学的製剤による治療をより安全に行う上で重要な知見であると考えられる。 また、ウイルスの再活性化に加えて、生物学的製剤使用下でのウイルス初感染時の病態を検討することも、本研究の一つであるが、複数の症例で、EBVやインフルエンザの感染が確認された。EBVの初感染をきたした症例については、各種サイトカインを測定し、免疫応答についての解析を行うことができた。 さらに、トシリズマブ使用中にインフルエンザに罹患した際の臨床症状、血液検査データなどを、生物学的製剤非使用例でのインフルエンザ症例と比較した。その結果、トシリズマブ使用下でインフルエンザに罹患した場合は、発熱などの症状が目立たない例が多いことや、白血球や血小板減少が高頻度に見られるなどの臨床的特徴を明らかにすることができた。生物学的製剤を使用している患者は、強力な免疫抑制下にあるため、感染症の重篤化が懸念される。今回得られた結果は、生物学的製剤使用下における、ウイルス感染の早期診断に寄与する重要な知見と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、生物学的製剤による治療を行っている若年性特発性関節炎患者での各種ウイルスのモニタリングを継続し、ウイルスの再活性化に伴う臨床的特徴や、再活性化が原疾患に与える影響等についての検討を行う。これまでは、トシリズマブにより治療されている患者を対象に検討してきたが、今後はTNF製剤等、他の生物学的製剤を使用している患者についても、対象を広げていく予定である。さらには、生物学的製剤を使用していない若年性特発性関節炎の患者と比較することで、生物学的製剤が、ウイルスの再活性化に与える影響をより明らかにしていきたい。 さらには、再活性化に伴う免疫応答についても、各種サイトカインの測定や、ウイルス特異的細胞性免疫をフローサイトメーターにより測定することで、解析する予定である。一方で、EBVの再活性化の機序をin vitroで解析することも計画している。リンパ芽球様細胞株 (LCL)などのEBV感染細胞株を用いて、トシリズマブや、他の生物学的製剤が、EBV関連遺伝子の発現に与える影響なども検討する予定である。 これらの解析を行うことで、生物学的製剤によって遮断されているサイトカインが、潜伏感染しているウイルスへの免疫応答にどのように関与しているかを評価できると考えている。 また、生物学的製剤治療中にEBVやインフルエンザに罹患した際の免疫応答の特徴を検討するため、患者血清を用いてサイトカイン等の炎症性メディエーターの解析を行う予定である。さらには、ウイルスの初感染が原疾患に与える影響についても検討を行う予定である。 以上の研究を通じて、生物学的製剤の使用が、ウイルスの再活性化および初感染に与える影響についての解析を行うことは、より安全で効果的な生物学的製剤による治療を行ううえで、重要な知見となると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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