研究課題
若年性特発性関節炎 (juvenile idiopathic arthritis; JIA) は、小児期発症のリウマチ性疾患の中では最も高頻度にみられる疾患である。近年、炎症性サイトカインの作用を遮断する新規の生物学的製剤が難治性のJIAの治療に応用されるようになり、疾患の予後は劇的な改善をみた。一方で、生物学的製剤によって惹起される易感染状態が指摘されており、特に潜伏感染している病原体の再活性化はしばしば重篤な転機に至ることが報告されている。本研究では、生物学的製剤で治療中のJIA患者でのEBウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の再活性化の解析を行った。生物学的製剤を導入後、定期的 (2~4週毎)に患者末梢血の採取を行い、血球よりDNAを抽出し、マルチプレックス定量PCR法により前述の3種類のウイルス量の定量することで、ウイルスの再活性化のモニタリングを行った。1-2年の観察期間中に、約70%の患者でHHV-6の再活性化が、約50%の患者でEBVの再活性化が確認されたが、発熱やリンパ節腫脹などの、これらのウイルスに起因すると考えられる臨床症状は認めなかった。また、生物学的製剤使用中のJIA患者でのEBV、インフルエンザウイルス感染症に罹患時の病態解析を行った。EBV罹患により、血清中の各種サイトカインの変化が確認されるとともに、一過性に関節炎が軽快するという、興味深い事象が複数例で観察された。一部の症例においては、EBV量が高値のまま遷延し、製剤の細胞性免疫に与える影響が示唆された。また、生物学的製剤使用中は、インフルエンザウイルス罹患時においても、発熱等の臨床症状が目立たないことや、白血球や血小板減少が高頻度に観察された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、生物学的製剤で治療中のJIA患者でのEBウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の再活性化の解析を行うことが主目的である。生物学的製剤を使用したJIAの患者は順調に蓄積され、延べ20人程度で解析を行った。前方視的に、長期間観察しえた患者における、HHV-6や、EBVの再活性化を確認することができた。EBVやHHV-6量の高値が遷延した例も存在したが、それらに起因するとかんがえられた臨床症状は伴っておらず、治療介入を必要とした例はみられなかった。一方で、臓器移植後等でしばしば問題となるCMVウイルスの再活性化は確認されなかった。一方で、生物学的製剤使用中のJIA患者でのEBV、インフルエンザウイルス感染症に罹患時の病態解析を行うことができた。いずれの感染症罹患時も、臨床症状は軽微なことが多く、血液検査異常等を契機に診断された例も多くみられた。一部のEBV感染症例においては、EBV量が高値のまま遷延し、製剤の細胞性免疫に与える影響が示唆された。また、生物学的製剤使用中は、インフルエンザウイルス罹患時においても、発熱等の臨床症状が目立たないことや、白血球や血小板減少が高頻度に観察された。さらに、一部のJIAの症例では、EBVの罹患により関節炎が軽快するという興味深い事象が観察された。背景には、ウイルス感染によるインターフェロンγやTh1応答の誘導が、関節炎に関与しているTh17の抑制に働いている可能性が示唆された。
今回の研究で、サイトカインの作用を遮断する生物学的製剤が、各種ヘルペス属ウイルスの再活性化に与える影響を評価することができた。その背景には、ウイルスに対する細胞性免疫応答の変化が推測される。生物学的製剤の投与が、個体の自然免疫や獲得免疫に与える影響を評価していきたい。具体的には、各種ウイルスに対する特異的細胞性免疫を、フローサイトメーターを用いて解析することを計画している。また、一部の症例ではEBVの罹患によりJIAでみられていた関節炎が軽快するという興味深い事象が観察された。背景には、ウイルス感染によるインターフェロンγやTh1応答の誘導が、関節炎に関与しているTh17の抑制に働いている可能性が示唆された。今後は、ウイルス感染に伴う、関節炎の寛解の免疫学的機序を、サイトカインの網羅的な測定や、フローサイトメーターなどを用いて解析する予定である。これらを通じて、関節炎が抑制される機序を解明することで、JIAの病態解明や、新規治療法の確立に寄与したいと考えている。一方で、今回検討したウイルス以外にも、宿主免疫が低下した場合に再活性化することが報告されているウイルスは多数報告されている。今後は、より多数のウイルスの再活性化を評価することが可能なシステムの構築を目指したい。
生物学的製剤を使用している若年性特発性関節炎患者におけるウイルスの再活性化を評価する目的で、継続的に数種類のウイルス量をモニタリングしている。平成26年2月現在、一部の患者でEBウイルス等が持続的に検出されている症例を経験している。ウイルスの再活性化や、ウイルスに対する免疫応答を追跡することが重要であるため、ウイルス量のモニタリングを6ヶ月間延長することとなった。生物学的製剤を使用中の若年性特発性関節炎患者での、血液中のウイルス量の定量を6ヶ月間継続する。現時点で、3-4人の患者において約2週毎に測定している。1検体の測定のための試薬等に、2000-3000円程度の費用を必要としているため、次年度に繰り越した研究費は6か月程度で、すべて使用する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
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