母乳性黄疸のメカニズム解明のため生後1か月の乳児50人を対象とした基礎研究を行った。血清総ビリルビン値(TB)は母乳哺育で上昇していたが、完全母乳でない場合は摂取割合による差は認めなかった。TBの平均(±SD)は完全母乳では8.71(±3.77)mg/dL、完全母乳でない場合は4.31(±2.58)mg/dLであり、完全母乳であるか否かがTBに影響を与えることが判明した。 次に完全母乳の有無とUGT1A1遺伝子の各遺伝子多型(p.G71R、(TA)7、c.-3279T>G)の有無で総ビリルビン値との関連性を評価した。UGT1A1遺伝子の各遺伝子多型の中ではp.G71Rのみが総ビリルビン値上昇に関連していた。解析の結果、TBは完全母乳群ではそうでない群の2.1倍に、p.G71Rがヘテロで存在する群では存在しない群の1.8倍であった。 さらに他の黄疸増悪因子を評価するため完全母乳とp.G71Rの存在の有無で補正した補正血清総ビリルビン値(CTB)で解析した。CTBは甲状腺ホルモンやコルチゾールとは相関は認めなかったが、胆道系酵素(ALP、LAP、γGTP)と正の相関を示していた。LAPの平均(SD)は81.4(±13.7)U/Lであり、10U/L増える毎に総ビリルビン値は1.2倍に増加した。LAPが+2SD値(基準上限値)であれば総ビリルビン値は1.7倍に増加することとなり、完全母乳やp.G71Rに匹敵する影響があることが判明した。 これらの結果から母乳性黄疸には完全母乳であることやUGT1A1遺伝子にp.G71R多型を持つことの影響が大きいものの、胆道系肝機能にも大きく影響を受けることが明らかとなった。また完全母乳でない場合には母乳摂取割合とTBとの相関関係がないことより、母乳中の物質が黄疸を増強させるわけではなく、人工乳中の物質により黄疸が軽減する可能性が示唆された。
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