IgA腎症は最も頻度の高い慢性糸球体腎炎であり、成人IgA腎症の20-50%が、さらに小児IgA腎症の10%が末期腎不全に至る予後不良の疾患である。肉眼的血尿は小児IgA腎症においてしばしば経験される合併症で、肉眼的血尿時に急性腎障害(AKI)を発症することが報告されてきた。これに加え、AKIを発症したうちのおよそ1/4の症例では慢性腎臓病へと進行し、さらにそのうちのある一定の症例は末期腎不全へ移行することが近年明らかとなった。しかしながらこれらの発症機序あるいは詳細な疫学などについては未だ不明な点が多い。 これまでの報告により肉眼的血尿に伴うAKIは急性尿細管障害が主な病態であることが証明されている。腎組織学的所見から赤血球円柱による尿細管閉塞がその発症機序ではないかと提唱されているが、全ての尿細管閉塞には至っていない点、またAKIの症状として非乏尿性である点を踏まえると、一元的に腎障害機序全てを説明するには至らない。そこで本研究では、肉眼的血尿に含まれる鉄が尿細管細胞のアポトーシスを誘発し、結果として尿細管障害を引き起こしているのではないかと考えた。そこでまず肉眼的血尿に伴うAKI症例の腎生検組織を用い、AKI発症前後の検体で鉄染色を行って比較検討したところ、発症前には鉄陽性像がほとんど見られなかったのに対し、発症後では尿細管腔上皮細胞内に有意に鉄陽性像を確認することができた。次に、鉄が近位尿細管細胞にアポトーシスを誘導することを確認するため、ヒト近位尿細管培養細胞(HK-2細胞)を用いて検討を行った。結果、鉄の主要成分であるheminが近位尿細管培養細胞にアポトーシスを誘導することが示された。鉄キレート剤やアポトーシス阻害薬が本病態に効果をもたらす可能性があることが示された。
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