先天性心疾患症例においては、肺動脈の低形成や出生後の循環動態変化に伴う肺循環障害の進行が、その予後に大きく影響していることが多い。このような症例においては肺高血圧に伴う病理学的変化を来たし、臨床経過のなかでも、その加療に難渋することが少なくない。本研究では、先天性心疾患小児において従来より最も頻繁に人工血管などに使用されるexpanded polytetrafluoroethylene (ePTFE)を利用したTransforming Growth Factor-β1(TGF-β1)溶出性グラフトを考案し、その臨床的有用性を検討することを目的とした。 まず、TGF-β1による培養肺動脈平滑筋細胞の遊走・増殖の抑制効果を確認した。ラット肺動脈内皮細胞・平滑筋細胞を各々培養し、胎児牛血清やTGF-β1・PDGF・VEGFなどの増殖因子の添加の下で、細胞の遊走能・増殖能を検討した。サイトカインが血管内皮細胞、平滑筋細胞の増殖に関与することは既に多くの報告がなされているが、肺動脈に関してはその効果の報告は少なく、本研究で初めて確認した。 TGF-β1溶出性ePTFEグラフトの病理学的変化、およびにシロリムスを添加したePTFEグラフトと非添加のePTFEグラフトの補填後の組織学的相違について検討した。ePTFEは多孔質構造を呈しているため、グラフト壁内に線維芽細胞や平滑筋細胞が浸潤し、グラフトに新生内膜が形成されることが認められた。植え込みから日数が経つに従って、ePTFEグラフトに内膜異常増殖や線維化、石灰化が認められる症例が増加した。 乳幼児において肺循環に異常を来した病態、特に先天性心疾患症例の肺動脈低形成や出生後の肺循環動態に伴う肺循環障害の進行は予後に大きく影響していることが多い。開心手術前後および将来にわたって肺血管抵抗上昇や肺高血圧が心不全の原因として進行する場合もある。TGF-β1溶出グラフトは肺血管抵抗、肺血管病変の変化抑制に有用であると考えられた。
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