研究概要 |
先天性甲状腺機能低下症(以下本症)の発症頻度は1/3,000である。本症患者の中にTSH受容体遺伝子 (TSHR)とDual oxidase 2遺伝子 (DUOX2)を片アリル性に有する者が存在する。しかし、片アリル性変異の推定頻度はTSHR 1/172、DUOX2 1/67と本症発症頻度より高く、片アリル性変異のみでは発症を説明できない。よって「複数遺伝子の多重変異がCH発症の一機序である」と仮説をたて、TSHRとDUOX2の二重変異は本症発症に寄与するかについて検討した。 本症患者401名を対象としてまずTSHRを解析し、片アリル性TSHR変異保有者を27名同定した。次に検出した片アリル性TSHR変異保有者でDUOX2を解析し、二重片アリル性TSHR・DUOX2変異保有者を4名同定した。検出したTSHR変異およびDUOX2変異の新規変異はHEK293細胞を用いた一過性発現系において、それぞれcAMP産生能およびH2O2産生能を評価し機能低下変異を確定した。片アリル性TSHR変異の頻度は、患者集団で6.7% (27/401)、一般集団で0.58% (1/172)、二重片アリル性変異保有の頻度は、患者集団で1.0% (4/401)、一般集団で0.0087% (1/172×1/67)であった。本症罹患のオッズ比は片アリル性TSHR変異保有12.3、二重片アリル性変異保有116.1と算出した。また本症罹患率をベイズの定理を用いて片アリル性TSHR変異保有者で0.38%、二重片アリル性変異保有者で3.7%と推定した。 片アリル性TSHR変異および二重変異は発症リスクを高めるが、罹患率は4%未満と大半は未発症であるため、本症発症者には遺伝因子・環境因子の更なる重積が想定された。今後は、他の遺伝因子の重積についても検討し、本仮説の更なる立証に努力していきたい。
|