申請者は,1型糖尿病を経口剤のみで治療する新しい治療戦略の構築に関する基礎的研究を行った.即ち,自然経過で1型糖尿病を発症したNODマウスを2種の経口剤(FTY720(フィンゴリモド)とシタグリプチン)を用いた併用療法で70日間治療し,1)この併用療法の有用性および2)適用できる病勢を調べ,以下の成果を得た. 1)併用療法の有用性:プラセボ群では治療開始後58日で全個体が死亡し,シタグリプチン群およびFTY720群の発症70日後までの生存率は,それぞれ,17%および50%であった.一方,FTY720+シタグプチン群では,83%が発症70日後まで生存し,シタグリプチン群およびプラセボ群と比較して有意な延命効果を示した. 2)この併用療法が適応できる病勢:治療開始時の空腹時血糖値に基づいて,①200 mg/dL未満群,200~399 mg/dL群,③400 mg/dL以上群および④プラセボ群(75~380 mg/dL)に分け,本併用療法で70日間治療した.その結果,プラセボ群および400 mg/dL以上群では,それぞれ,治療開始後58日および68日までに全個体が死亡した.一方,200 mg/dL未満群では75%が生存し,プラセボ群および400 mg/dL以上群と比較して有意な延命効果を示した. これらの治療効果は,生化学的(血糖の推移)および組織化学的(インスリン産生能および膵島炎の程度)に裏付けられた. 本研究の結果から,FTY720とシタグリプチンの併用療法によって,①1型糖尿病を発症したNODマウスを有意に延命できること,②尿糖が陽性かつ随時血糖値が高値であっても,治療開始時の空腹時血糖値が200 mg/dL未満,すなわち,IGT(impaired glucose tolerance)の状態であれば,この経口療法で治療できる可能性があることが示された.
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