研究課題
胎児腎の発生過程で生じる腎芽腫の5年生存率は、治療法の発展により半世紀の間に50%から90%まで劇的に改善された。2009年の報告では予後予測因子であった病期、組織型および年齢にかかわらず、各病期の10%の患者が死亡に至る。更なる生存率の改善には予後不良症例を予見可能な新規分子マーカーの開発と予後不良症例に対する治療法の開発が必要である。我々は112人の腎芽腫患者の解析より腎芽腫腫瘍死症例9症例中6症例でWTX遺伝子の変異を2症例でWT1およびCTNNB1両遺伝子の異常が生じていることを明らかにした。このことはWT1とβ-カテニン両シグナル経路の異常を生じた腎芽腫の予後は不良であることを示唆した。24年度は予後調査および統計学的解析を行うとともに、追加腎芽腫腫瘍死症例の変異解析を行った。Kaplan-Meier法による解析によって全生存率で有意な差(p=0.0402)をもってWTX変異を有する腫瘍が予後不良であったが、WT1とβ-カテニン両シグナル経路の異常を有する腎芽腫とそうでない腎芽腫では生存率に有意な差を認めなかった(p=0.117)。腎芽腫腫瘍死症例に絞った解析は、より有意にWTX変異を有する腫瘍の生存率が不良であることを明らかにした(p=0.0031)。一方、腎芽腫の予後に深く相関する再発とWTX変異に相関は認められなかった。追加症例の遺伝子異常の解析にて、新規腎芽腫腫瘍死6症例中4症例でWTX遺伝子変異を見いだしたがWT1およびCTNNB1両遺伝子の異常は生じていなかった。これらの結果は当初の仮説とは異なりWTX遺伝子異常が腎芽腫の予後不良因子であることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
予後調査、統計解析および追加症例の解析を行い当初の仮説「WT1とβ-カテニン両シグナル経路の異常を生じた腎芽腫の予後は不良である」とは異なり「WTX遺伝子異常が腎芽腫の予後不良因子である」ことを明らかにした。また、WTX遺伝子異常を示した腎芽腫のうち腫瘍死に至った症例特異的な染色体異常があるかどうをSNP arrayにより解析している。これらのことより、当初の本年度の研究計画が順調に進行している。
腎芽腫細胞株を用いshRNAによるWTX遺伝子の発現抑制が細胞株に与える影響を調べる予定であったが、3つの細胞株全てでWTX遺伝子の発現がかなり低いため解析できなかった。そこで、本研究の目的にかなう腎芽腫細胞株を更に収集し、WTX遺伝子の発現抑制が細胞株に与える影響を調べる。また、WTX遺伝子の変異が同定された大腸がんで、細胞株を用いてWTX異常が細胞株に与える影響を解析する。一方、WTX遺伝子異常を示した腎芽腫のうち腫瘍死に至った症例特異的な染色体異常があるかどうかを解析するためにSNP array解析を継続する。
WTX遺伝子の発現が細胞に与える影響を解析するため、新たな腎芽腫および大腸がん細胞株の購入。WTXの機能解析のための試薬費。SNP array解析のための試薬費。人件費や旅費。以上に使用する。
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