腎芽腫は小児三大悪性腫瘍の一つで小児腎腫瘍の9割を占め、日本で年間約80人が発症する。病理組織型・病期や発症年齢等の予後因子により患者を層別化し治療することにより、腎芽腫の5年生存率は30%から90%まで劇的に改善されたが、未だ30%の患者は集学的治療にも関わらず再発や死亡に至る。また、他の小児腫瘍と同様に腎芽腫は治療後、長期に生存するため生じた腎芽腫の悪性度によって治療法を選択することで再発や死亡症例の減少および副作用や晩期障害の軽減が期待される。これらのことより、腎芽腫の悪性度や予後を分類できるマーカーの開発が切望されている。 昨年度の解析により全生存率で有意な差(p=0.040)をもってWTX変異を有する腫瘍が予後不良であり、腫瘍死症例に絞った解析ではより有意にWTX変異を有する腫瘍の生存率が不良であった(p=0.003)。今年度はSNP array解析およびTP53遺伝子変異と予後との相関を解析した。1番染色体短腕や16番染色体長腕のヘテロ接合性の消失(LOH)は腎芽腫の予後不良因子であると欧米から報告されている。1番染色体短腕または16番染色体長腕のLOHは腎芽腫発症日本人患者112人中17症例および10症例でそれぞれ確認された。そのうち、それぞれ1症例でのみ死亡が観察され、日本人腎芽腫において1番染色体短腕または16番染色体長腕のLOHは予後不良因子となっていないことが明らかになった。また、WTX遺伝子異常を呈した腎芽腫28症例中2症例でTP53遺伝子変異が生じており、両症例は完治することなく腫瘍死に至っていた。これらの結果より、この2遺伝子(WTX遺伝子とTP53遺伝子)両方に変異が生じた腎芽腫は特に悪性度が高いことを見いだした。
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