研究課題
エストロゲン関連受容体(ERRα,β,γ)を介した内分泌攪乱物質による発達神経毒性の発現機序を,神経内分泌学的な観点から解明する目的で,以下の研究を行った。1)ビスフェノールA(BPA)の作用点とされるERRγの脳における局在を,ラットを用いて免疫組織化学的に検索した。その結果,ERRγは大脳(線条体など),間脳(視床網様核など),脳幹(黒質など),小脳(分子層)の全て領域で広く発現しており,視索前野前腹側脳室周囲核(AVPV)や内側扁桃体(MeA)などエストロゲン受容体(ER)の豊富な領域ではERαとの共局在を認めた。以上より,ERRγは脳において部位特異的にエストロゲン機能を調節していることが示唆され,また,BPA標的領域について基礎的知見を得た。2)ERRのエストロゲン作用について分子機構を明らかにするため,蛍光標識したERαおよび各サブタイプのERRをCOS-1細胞に共発現させ,ライブセル・イメージングを行った。その結果,ERRのうちβ型のみがエストラジオールに反応してERαと重なる顆粒状の蛍光像を示し,更に,ERRβはERαと相互作用を起こしてERαの可動性を低下させた。また,ERRのうちβ型のみがERαのEREに対する転写活性を抑制したことから,ERRβによるERαの可動性低下が転写抑制に結び付くことが示された。3)ジエチルスチルベストロール(DES)のERRを介した作用機構を解明するため,蛍光標識した各サブタイプのERRをCOS-1細胞に発現させ,ライブセル・イメージングを行った。その結果,DESを加えるといずれのサブタイプのERRも顆粒状の発現様式を呈し,中でもγ型は核外への移行も認められた。また,いずれのサブタイプのERRもDES添加後に核内における可動性が減少した。以上より,DESはERRの可動性を低下させることでその転写活性を抑制することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
代表者は,ERRによる神経回路形成と,ERRを介した内分泌攪乱物質による発達神経毒性の発現機序を明らかにする目的で研究を行っている。初年度は,BPAによる発達神経毒性の原因分子として疑われているERRγの脳における局在を明らかにした。また,ERRによるエストロゲン応答性遺伝子の発現調節機構をERαとの相互作用に着目し,ライブセル・イメージングとレポーター・アッセイを駆使して解明した。更に,DESのERRを介した作用機構について,ERRの細胞内動態からそのメカニズムの一旦を明らかにした。これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後は,初年度の結果を受け,以下の方策を掲げる。1)ラットを用いて発達期脳におけるERRの局在を定量免疫組織化学的に明らかにし,BPAの発達期脳におけるターゲット部位の同定を行う。更に,各種ニューロンマーカーを用いてERR発現ニューロンの特性を示し,BPAによる脳機能破綻メカニズムの一旦を解明する。2)脳部位特異的なERRの阻害/過剰活性化実験を試み,ERRによる神経回路形成作用の解明を目指す。3)神経細胞初代培養系を確立し,GFPイメージング技術を用いてシナプス形成/可塑性に対するERRの機能や,内分泌攪乱物質(BPA,DESなど)によるその破綻機構の解明を目指す。4)ERRを介したエストロゲン作用の分子機構を解明するため,ERRのERαとの相互作用ドメインを特定する。更に,ERRによるエストロゲン応答性の転写制御機構とその破綻機構を明らかにするため,ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を持つp300/CBPなどのコファクターとERRの関連性を明らかにする。以上の計画において研究を遂行し,得られた成果は積極的に学会および論文での発表を行う。
該当なし。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件)
Journal of Applied Toxicology
巻: [Epub ahead of print] ページ: in press
10.1002/jat.2839