研究課題/領域番号 |
24791138
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
住田 隼一 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30609706)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脂質 / リゾリン脂質合成酵素 / ステロイド / グルココルチコイド受容体 / 癌 / 脂肪 |
研究概要 |
Autotaxin(以下ATX)は、Lysophosphatidic acid(以下LPA)を合成することで、多種多様かつ極めて重要な役割を発揮している。代表者は、ATXを高発現するヒト肝癌細胞株であるHuh7細胞において、ステロイドホルモンの一種であるデキサメサゾンによりATX mRNAが著明に低下することを発見している。そこで、代表者は、ATXがヒト血中に豊富に存在することに注目し、ヒト血中ATXがステロイド内服による影響をうけるのではないかと考えた。それを検証すべく、様々な皮膚疾患(全身性強皮症、皮膚筋炎、水疱症など)患者の血清を用いて、ATX濃度を測定した。明らかな疾患特異的変動はみられなかったが、代表的なステロイドであるPrednisolone(以下PSL)を内服する患者では、内服開始前と比較して血中ATXの低下を認めた。これは、疾患の活動性とは関連なく認められ、同一患者でも、PSLの内服量を漸減すると濃度依存的に上昇し、PSL内服量と血中ATX濃度は有意な逆相関を示した。最近、別グループより、マウスでは脂肪組織が血清ATXの供給源であるという報告(Dusaulcy et al., J Lipid Res., 2011)がなされたため、代表者は、マウスの精巣上体脂肪組織を用いて、ステロイドが脂肪組織のATX発現に及ぼす影響を検討した。結果、PSL刺激により、脂肪組織のATX mRNAの減少がみられた。これらの結果はヒトでみられたステロイド内服による血中ATX低下の原因が、脂肪におけるATX mRNAの低下と関連していることを示唆している。ヒト血中ATX制御に関する報告は世界初であり、ATXが合成するLPAの重要性を考慮するとその意義は高く、ここまでの成果をまず論文として報告した(Sumida H et al., Clin Chim Acta., 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATXの発現制御機構に関してはこれまでほとんど全くわかっていなかった。しかしながら、これまでの研究成果により、ヒト肝癌細胞株であるHuh7細胞において、ATXがステロイドによって制御されていることが明らかになっており、また、新たに、ATXの発現が生理的に高い組織であるマウス精巣上体脂肪組織でも同様の知見が得られた。これらの結果は、ATXの発現制御がステロイドによって普遍的に制御されていることを示している。さらに、ヒト血中でもステロイド内服による末梢血中ATX濃度の低下がみられたことから、今回の発見が臨床的にも重要な意味を有していることが明らかとなった。これらの研究進捗は、ATXの発現制御機構とその意義を明らかにしたいという研究目的に沿ったものであると考えられる。Huh7細胞を用いた実験から、ステロイドによる発現抑制機序がグルココルチコイド受容体を介したものであることはわかっている。しかしながら、そのさらなる詳細なメカニズムに関しては、いまだ不明な点が多く、今後、さらなる研究の遂行が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ATXがステロイドにより発現制御されるという事実については、これまでの、Huh7細胞、マウス脂肪組織などを用いた実験等により、明らかになったといってよい。また、これらの結果が、ステロイド内服患者で血中ATXが低下したという測定結果と矛盾しなかったことから、その臨床的重要性に関しても示唆することができた。今後は、その詳細なメカニズムの解明に向けて、実験を推進していくことを計画している。具体的には、グルココルチコイド受容体をはじめとするステロイド受容体の関与についての検討、さらには、ATX遺伝子プロモーター領域の同定とステロイドによる転写制御機構の解明などが挙げられる。受容体の関与については、すでにグルココルチコイド受容体の関与を示唆するデータは得られているが、その他ミネラルコルチコイド受容体の関与などについては追加で検討を行う予定である。プロモーター領域の同定と転写制御機構の解明に関しては、プロモーター解析、ルシフェラーゼアッセイなどを行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記「今後の研究の推進方策」の欄に記載した内容の計画を実施する際の、物品費としての使用を考えている。
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