研究課題
Lysophosphatidic acid(以下LPA)は、細胞増殖、血小板凝集効果、がんの浸潤促進効果など非常に多岐にわたる薬理的作用を持っている脂質代謝産物であるが、LPAは、Autotaxin(以下ATX)という酵素のlysoPLD活性によって合成される。代表者は、ATXを高発現する細胞株において、ステロイドホルモン添加により、ATX mRNAが著明に低下することを発見した。ステロイドが様々な自己免疫疾患等で治療薬として利用されていること、ATXが血中に豊富に存在することなどに注目し、血中ATXのステロイド内服による影響を検討した。まず、無治療の全身性強皮症、皮膚筋炎、水疱症など各種自己免疫疾患患者の血清を用いて、血中ATX抗原濃度を測定したが、明らかな疾患特異的変動はみられなかった。しかしながら、これらの患者が、治療としてステロイドであるPrednisolone(以下PSL)を内服したところ、内服開始前と比較して血中ATXが低下し、その程度は、PSL内服量と相関した。マウスでは脂肪組織が血中ATXの供給源とされているため、マウスの精巣上体脂肪組織を用いて実験を行ったところ、PSL刺激により、脂肪組織のATX mRNAの減少がみられた。これらの結果はヒトでみられたステロイド内服による血中ATX低下の原因が、脂肪におけるATX mRNAの低下と関連していることを示唆している。また、その後の解析にて、これらの作用がステロイド受容体を介していることも明らかとなっている。しかしながら、詳細な発現制御機構についてはいまだ不明な点が多く、さらなる研究の遂行が必要と考えられるため、現在、追加で検討を続けている。これらの結果は、多様な作用をもつATXが様々な疾患で治療薬として利用されるステロイドによって発現制御されることを世界ではじめて示すものであり、その臨床的意義は高いと考える。
すべて 2013
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Clinica Chimica Acta
巻: 415 ページ: 74-80
10.1016/j.cca.2012.10.003.