研究課題
深部静脈血栓症では、血管内皮細胞や好中球、血小板の細胞接着分子、血流中の血小板由来微小粒子や組織因子の関与が示されているが、未だその詳細は解明されていない。本研究の目的は、各細胞接着分子欠損マウスや深部静脈血栓症マウスモデル等を用いることにより、深部静脈血栓症発症のメカニズムを解析することである。深部静脈血栓症マウスモデルであるが、本年に入り、従来のモデルに比較して明らかに優れているマウスモデルが発表された。従来の様に完全閉塞させるのではなく、血管に狭窄のみをおこさせるモデルである。実際に人体に起きているのも狭窄であり、現在はこのモデルの導入を行っている。技術的な問題点があったが、解決することが出来た。これと平行して、深部静脈血栓症では、前述の通り、好中球の関与が示されており、大血管内での炎症細胞浸潤、特に好中球のリクルートについての研究も進めている。深部静脈血栓症は比較的太い血管内で生じる。好中球が炎症局所に入る際には、まず血管上をローリングするところから始まるが、今まで、大血管の様に流速の早い部位で好中球が何故ローリングできるのかは明らかではなかった。今回、我々は、Klaus Ley博士との共同研究により、好中球が流速の早い部位でローリングする際に、今まで考えられていたように、細胞突起が進行方向後ろ側に伸びて壁面と接着し、細胞が流されないように引っ張るだけではなく、細胞突起が進行方向前方にも伸びて壁面と接着分子を介し接着(スリングと命名した)することを発見した。後ろ側から引っ張るだけでは計算上、早い流速には耐えられずに壁面から離れてしまうために、今まで、何故、好中球がローリング出来るのか謎であったが、このスリングの発見により、流速の早い部位でのローリングのメカニズムを明らかにした。この成果はNature誌に掲載された。これにより深部静脈血栓症発症の理解が深まった。
1: 当初の計画以上に進展している
今まで、流速の遅い極めて細い血管内における、ローリングを含む炎症細胞浸潤メカニズムはよく理解されていたが、どのようにして流速の早い太い血管内で、ローリングから始まる炎症細胞浸潤が可能になるのかは分かっていなかった。今回の研究において、われわれは細胞接着分子が好中球上の細胞突起と血管内皮との間で結合することによりSlingが形成されることを発見した。このSlingの発見は、こうした疑問の解明を大きく前進させるもので、深部静脈血栓症をはじめとする、太く、比較的流速の早い血管における炎症細胞浸潤のメカニズムを考える上で、極めて重要な発見であり、本研究の目的である深部静脈血栓症の発症メカニズム解明に大きく寄与するため、研究の目的の達成度としては、計画以上に進展していると考えている。
引き続き、深部静脈血栓症の発症メカニズム解明を進めたいと考えている。まずは、新規導入の深部静脈血栓症モデルマウスを用いて、L-selectinノックアウトマウス、ICAM-1ノックアウトマウス、P-selectinノックアウトマウス、E-selectinノックアウトマウス、およびPSGL-1ノックアウトマウス、及び、そのダブルノックアウトマウスを解析することにより、深部静脈血栓症の分子メカニズムに迫りたい。また、シグナル伝達分子の関与も重要であると考えられるため、この点についても、特に最近になり関与が取りざたされている好中球を中心に解析し、深部静脈血栓症の発症メカニズム解明に寄与したいと考えている。
本研究においては、非常に多くのノックアウトマウスを使用するため、実験動物の維持費に多額の費用が必要となり、80万円ほどを予定している。また、マウスの解析にあたり、組織学的解析などを行う際に各種抗体を使用し、また、shRNAの使用も行うため、その作成試薬なども必要である。抗体やこうした試薬費も高価であるが、様々な解析を行うためにはそれに応じた試薬が必要であり、合計80万円程度必要となる見込みである。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件)
Clin Rheumatol
巻: 32 ページ: 43-7
10.1007/s10067-012-2089-y.
Arch Dermatol Res
巻: 305 ページ: 17-23
10.1007/s00403-012-1292-7.
巻: 現在、電子版のみ公開。印刷中。 ページ: 現在、電子版のみ公開。印刷中。
Rheumatology (Oxford)
Eur J Dermatol
実験医学
巻: 31 ページ: 433 -436
Nature
巻: 488 ページ: 399-403
10.1038/nature11248.