研究課題/領域番号 |
24791142
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
齋藤 佑希 金沢大学, 大学病院, 助教 (90547168)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 虚血再潅流傷害 / 褥瘡 / TNF-α / iNOS / IL-6 / 接着分子 |
研究概要 |
本年度は、接着分子ノックアウトマウス(ICAM-1-/-、L-selectin-/-、E-selectin-/-、P-selectin-/-)を用いた皮膚虚血再潅流傷害マウスモデルを作成し、その傷害の程度について検討した。しかし、これらのマウスでは治癒までの時間は野生型と同程度であり、傷害の程度は軽減されなかった。組織学的には、野生型と比べday1での浸潤細胞数は好中球、マクロファージ共に減少していたが、その後漸増し、day3には野生型と同程度まで増加していた。さらに、TNF-αとiNOSの発現量もday1は少ないものの、day3には同程度まで上昇していた。以上から、いずれの接着分子も皮膚虚血再潅流傷害の細胞浸潤において関与しているものの、1種のみの阻害では十分な治癒軽減効果はなく、複数の接着分子を阻害する必要があることが示唆された。また細胞浸潤課程においてそれぞれの接着分子が段階的に作用するのではなく、その作用を補完しながら細胞を浸潤させることを示している。 さらに、来年度の予定であった中和抗体の予備実験を行った。抗IL-6抗体を投与した野生型マウスは、皮膚虚血再潅流傷害が軽減され、その程度は、抗TNF-α抗体を投与した場合とほぼ同等であった。またその組織におけるTNF-αとiNOSの発現は、抗体を投与していない野生型マウスと比較し、著しく低下していた。以上から、IL-6は虚血再潅流傷害の早期段階において炎症に大きく関与しており、それを抑制することで、虚血再潅流傷害および褥瘡を軽減させられることが示唆された。 来年度は、IL-6の中和抗体を中心に、ノックアウトマウスや抗TNF-α抗体や1400Wなどこれまでに効果が明らかなものと組み合わせて、より効果的な傷害抑制方法について検討し接着分子の関与・機序を解明し、創薬の可能性を追求したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ノックアウトマウスを中心に、接着分子と虚血再潅流傷害の関与を詳細に検討する予定であった。結果、虚血再潅流傷害の細胞浸潤は複数の接着分子やサイトカインが相互作用し起こっており、一つの接着分子を阻害しただけでは十分な傷害抑制効果が得られないことが分かった。つまり、接着分子の観点から褥瘡の予防を図ろうとした場合、複数の接着分子を同時に抑制することが必要であり、それは薬としては複雑かつ高価なものとなる可能性が高く、また副作用も大きいものとなることが予想され、従って、接着分子のみの抑制では褥瘡予防は難しいことがわかった。 予想が外れたことは残念であったが、ターゲットが絞れ、次年度の予備実験を今年度に行え、時間的に余裕ができた。予備実験の結果は予想以上の結果で、抗IL-6抗体は虚血再潅流傷害を強く抑制し得る効果的なものであることがわかったことは、非常に大きな意味を持つ。 以上から、概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
接着分子ノックアウトマウスに抗TNF-α抗体や1400Wなどこれまでに効果が明らかなものを投与し、虚血再潅流傷害が飛躍的に抑制される可能性がないか、再度検討する。また、IL-6の中和抗体を、ノックアウトマウスや抗TNF-α抗体、1400Wなどこれまでに効果が明らかなものと組み合わせて、傷害軽減効果を検討する。 これらの結果から、皮膚における虚血再潅流傷害のメカニズムを解明し、より効果的な虚血再潅流傷害を軽減するターゲットを模索し、実際のモデルマウスを作成して実験を行う。 そして、効果が高いと判断したものの投与方法を検討し、副作用・安全性についても検討し、創薬につながる研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、4種類の接着分子ノックアウトマウスを用い、虚血再潅流傷害の機序について詳細に検討する予定であったが、接着分子ノックアウトマウスでは十分に虚血再潅流傷害が抑制されなかった。従って、今年度は多種のノックアウトマウスの維持・管理が短期間となり、予定していた費用を次年度に繰り越すこととなった。 次年度も引き続き実験動物の維持・管理が必要であり、高額になることが予想される。加えて、抗体製剤は特に高額で、複数の抗体製剤を多数のマウスに投与する予定であることから、大部分が動物管理および薬品に当てられる。
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