研究課題
褥瘡を始めとする皮膚虚血再潅流障害において、HMGB1が創傷治癒に及ぼす効果を検討した。そこで本課題では、実験的にマウスに褥瘡を作成し、HMGB1の作用を検討した。我々は、2つの円筒形マグネットによりマウスの背部を挟むことにより、褥瘡モデルを安定して作成することに成功した。HMGB1は虚血再潅流後の過剰な炎症に関わっていることが報告されている。我々は、抗HMGB1抗体100μgを1日おきに合計5回、マウスの褥瘡モデルに静注した。抗HMGB1抗体は虚血再潅流後の第9日目および第10日目において、有意に潰瘍の大きさを縮小させた。我々は肉眼的におよび組織学的にこのことを確認した。また、抗HMGB1抗体は組織でのiNOSやTNFαの発現を抑制したことから、再潅流後の過剰な炎症を抑えていることが推察された。虚血再潅流後には、障害部位では血管透過性が亢進し、皮膚の著明な浮腫が起こることが報告されていた。我々は蛍光色素であるCy5を内包した径100nmのナノナノポリマーを作成し、これを再潅流直後のマウスに静注した。Cy5を内包するナノポリマーは、障害部位の透過性が亢進した血管より漏出する。我々は、In Vivoで測定可能な蛍光検出器により、漏出したCy5ナノポリマーの発する蛍光を測定し、再潅流後の浮腫を生体イメージングすることに成功した。我々は、この生体イメージング技術を使用し、虚血再潅流後の浮腫が抗HMGB1抗体の静注により減弱することを発見した。これらの結果は抗HMGB1抗体が虚血再潅流障害において、過剰な炎症を抑えることで、潰瘍の治癒を促進していることを示唆している。今後、HMGB1をターゲットとした薬剤の開発のための基礎的なデータとして有用であると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
我々は、すでにマウスにおける褥瘡モデルを安定的にかつ高い再現性で作成することに成功した。このモデルにおける障害部位でのHMGB1の放出を、免疫組織化学的に確認した。HMGB1は障害部位の表皮細胞から強く放出されていることが示された。血清中や、組織でのHMGB1を測定したが、明らかな上昇は見られなかった。虚血再潅流による障害部位での血管透過性亢進の評価をCy5ナノポリマーを用いて生体イメージングすることに成功した。こられは、H24年度の達成目標である。すでにこれらの評価は終了し、抗HMGB1抗体の炎症抑制効果についても検討した。抗HMGB1抗体は、①炎症メディエーターの発現を抑制し、②再潅流障害により生じた潰瘍の治癒を促進し、③再潅流後に生じる浮腫を軽減することを我々は発見した。これらの成果から、現在の状態は当初の計画よりも進んでいると考える。またこれらの成果は第37回日本研究皮膚科学会総会(那覇)にて口頭発表した。
HMGB1は、虚血再潅流障害の急性期では過剰な炎症を引き起こし、障害の増悪に関わっている。その一方で、潰瘍の治癒期においては、幹細胞を骨髄から動員したり、線維芽細胞の増殖を増殖を促進したりして、治癒をむしろ促進する作用も報告されている。従って、褥瘡モデルにおいても、この治癒期において抗HMGB1抗体がどのような作用を持つのかを確かめる。潰瘍面積を経時的に測定し、これが抗HMGB1抗体投与群と対照群で違いが出るのかを確認する。また、HMGB1の効果をin vitroにおいても検討する。血管内皮やリンパ管内皮細胞は潰瘍の治癒に重要に関わっている。HMGB1がこれらの細胞の増殖を促進するのかを明らかにする。
研究費の使用は以下の目的に使用する。①褥瘡モデル測定のための動物の購入。動物実験関連消耗品の購入。②培養細胞や培養器具、培地、試薬。③研究成果の発表や情報収集のための旅費。論文作成、投稿のための費用。
すべて 2012
すべて 学会発表 (1件)