研究概要 |
応募者はメラノーマのSIRT1を調べ、核内で働くと考えられていたSIRT1がメラノーマ細胞は細胞質に局在すること、さらに、SIRT1のノックダウンやSIRT1の阻害はマウス (B16F1, B16F10) やヒト(MM418, WM266-4, MeWo,G361, SK-MEL-24) メラノーマ細胞の細胞移動を抑制することを見出した。B16F1細胞を皮下移植したマウスにSIRT1阻害薬ニコチンアミド(NAM)を投与(1日1回)するとメラノーマの腹腔転移とリンパ節転移が抑制され、寿命が有意に延長された。SIRT1をノックダウンしたB16F1細胞はコントロールのB16F1細胞に比べて浸潤性転移と血行性肺転移が著しく抑制された。 メラノーマ細胞の移動は細胞の突起状構造物であるラメリポディア(葉状突起)が移動方向に向けて作られることにより始まる。SIRT1はラメリポディアに局在しており、ニコチンアミドによるSIRT1の阻害で血小板由来成長因子(PDGF) などの成長因子依存性のラメリポディア形成が抑制された。また、活性型Racはラメリポディアを形成させるが、SIRT1を阻害するとRac依存性のラメリポディア形成も阻害された。この機序は、SIRT1阻害薬がPDGFによるphosphatidyl inositol (3,4,5) trisphosphate (PIP3)増加を抑制することが関連することをFRET(蛍光共鳴エネルギー移動法)により明らかとした。局所でのPIP3の増加はラメリポディアを形成させることに十分である(Kakumoto & Nakata PLOS One 8, e70861, 2013)ため、SIRT1阻害でラメリポディアが形成されない理由は膜でPIP3が十分に形成されないためと考えられる。
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