フィラグリンの機能喪失変異がアトピー性皮膚炎の発症因子として注目されているが、フィラグリン変異を有するだけでアトピー性皮膚炎を発症するわけではなく、発症機序には不明な点が多い。本研究では、フィラグリン欠損マウスを低湿度環境下で飼育し、乾燥環境がフィラグリン欠損皮膚に与える影響を構造、機能的に評価すると共に、各種抗原を塗布することでアトピー性皮膚炎様マウスモデルの作成を試みた。 通常湿度環境下(湿度40-60%)で飼育したフィラグリン欠損マウスは、日齢3頃からドライスキン様の外観と著しい落屑を認め、フィラグリンが原因遺伝子である尋常性魚鱗癬に類似した表現型を示すが、皮膚が体毛に覆われるとこれらの表現型は消失する。一方、生後より低湿度環境下(湿度20%以下)で飼育したフィラグリン欠損マウスは、通常環境下で飼育するのに比べ尋常性魚鱗癬の表現型が増悪し、アダルトマウスまで症状が遷延することがわかった。低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスの皮膚バリア機能を評価したところ、同腹の野生型マウス及び通常飼育環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスに比べ、経皮水分蒸散量の著しい増加が認められ、外界から角層内への蛍光物質の浸透性の亢進が観察された。低湿度環境下のフィラグリン欠損皮膚を組織学的に観察すると、異常な角質形成がみられ、亀裂が生じやすく、物理的に脆弱である可能性が示唆された。しかし、生後より低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスが皮膚炎を自然発症することはなく、血清総IgE値も上昇しなかった。OVAを用いて外来抗原に対する経皮免疫応答能を評価したところ、通常湿度環境下で飼育したマウスに比べ、低湿度環境下で飼育したマウスでは経皮免疫応答が亢進する可能性が示唆された。 本研究結果より、フィラグリン欠損皮膚は、乾燥環境という因子が加わることでバリア機能がより増悪することがわかった。
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