高齢者のうつ病患者において、臨床症状あるいはMRI等の脳画像診断に基づいて『血管性うつ病仮説』が提唱されている。これまでの研究から、実験動物(マウス)を用いて、大脳左半球における脳血管障害がストレス脆弱性を引き起こすことにより、うつ病の病態に貢献することを明らかにした。本年度は、昨年度に引き続き、脳血管障害によるストレス脆弱性の臨界期の同定を目指した。その結果、脳血管障害後の2~4週間のみ(慢性期)にストレス負荷したマウスは、脳血管障害の直後から4週間のストレス負荷したものと同程度から少し軽い程度のうつ病様の行動異常を示した。一方で、脳血管障害の直後から2週間のみ(急性期)にストレス負荷したマウスはうつ病様行動異常を示さなかった。今回の実験系では、行動解析を脳血管障害の4週間後に行っており、急性期にストレス負荷した直後のうつ病様行動異常については検討していない。この検討は、脳血管障害後のどの時期にストレス脆弱性を規定するのかを明らかにするためには必須の実験であり、今後、引き続き検討を進める予定である。また、脳血管障害がうつ状態の持続性に及ぼす影響について検討するために、7週間のストレス負荷のうち後半の3週間をストレス解除し、ストレス負荷の直前あるいは4週間後(ストレス解除直前)に脳血管障害を施した。その結果、脳血管障害がうつ状態の持続性に影響を与えなかったが、興味深いことに、ストレス負荷の4週間後に大脳左半球に脳血管障害を施したマウスにおいて、anhedonia様の行動異常が改善することを見出した。この効果は大脳右半球に脳血管障害を施したマウスにおいては観察されなかったことから、脳血管障害によるストレス応答性に大脳半球優位性があることが示唆された。
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