研究課題/領域番号 |
24791196
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松澤 大輔 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10447302)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / 恐怖条件付け |
研究概要 |
青年期に好発する不安障害やうつ病などの精神疾患の発症脆弱性や治療反応性の有無には個人のストレス耐性の差が強く関与していると考えられる。それには出生後に発現調節を受ける、DNAメチル化に代表されるエピジェネティックな現象、特に小児(発達)期における脳内遺伝子のエピジェネティックな再編成の関与が考えられる。本研究ではマウスにメチルドナー制限食を用いて促した小児期のDNAメチル化の再編成が、成長後のストレス耐性、刺激に対する生理的反応、不安・抑うつ・社会性等の行動面に影響を与えることを多角的に検証、発達期脳内遺伝子制御の与える精神疾患への影響を探り、再編成したDNAメチル化の回復が治療につながることを検討する。 出生後発達期に遺伝子がある種の要因によってDNAメチル化を含めたエピジェネティックな再編成を受けることは、①その後の精神疾患の発症脆弱性、もしくは②発症に対する抵抗性をもたらし、効果的な治療は発症脆弱性につながった変化を回復させると考えている。そして、そのような変化を受ける脳領域と遺伝子を特定することが将来の治療、創薬のターゲットになると考える。 メチルドナー欠乏食(FMD食)を発達期マウスに与えて脳内DNAメチル化の再編成を促し、成長後の行動変化とその分子機構を検証した。FMD食群では海馬依存的な恐怖記憶の固定に障害が見られ、背景にはGABA系受容体の発現低下の影響が示唆された(Ishii et al., in preparation)。幼年期メチルドナー摂取不足は恐怖記憶形成に成長後も続く障害が起こりうる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究機関内において、DNAメチル化を中心としたエピジェネティックな遺伝子制御の変化を発達期にもたらすために、C57BL/J系統マウスに、メチルドナー欠乏食を生後3-6週に課す。対照群は通常食飼育群である。その上で、1)脳を含む重要臓器遺伝子のメチル化変化、2)ストレス耐性を中心とした行動解析、3)脳形態と生理的反応の解析、4)NMDA受容体、グルココルチコイド受容体と脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子のメチル化変化、発現変化からDNAメチル化の成長後再編成の影響を検証し、5)薬物と環境による回復可能性を探ることを目的として、実験を施行した。現在のところ、1)2)3)4)を中心に順調に研究を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
メチルドナー欠乏食による成長後の脳内の神経伝達変化を探るために幾つか候補遺伝子を絞り、それらのメチル化変化、発現変化を探ることで、行動変化の背景を探る予定である。例えば、NMDA受容体はグルタミン酸受容体の1つで、記憶や学習メカニズムに深く関わる長期増強(LTP)のような可塑的変化をもたらし、獲得した恐怖の消去学習においてそのアゴニストが治療的効果を促進する(Matsuda, 2010)。その他のグルタミン酸受容体や、グルココルチコイド受容体などの遺伝子上流CpGアイランドのメチル化について、メチルドナー欠乏食群に起きたメチル化再編成の影響を脳部位ごと(海馬、扁桃体、内側前頭前野)に、生後6週、12週時点で確認する。 さらに、既に確認している12週時点での行動変化やNMDA受容体発現変化が、その後の薬理学的操作(DNAメチル化修飾薬剤であるValproateやifenprodil)やマウスにとって心地良い環境を整えたエンリッチな環境が、再編された脳内DNAメチル化の回復と共に、行動変化に対しての回復作用をもたらすかを検証し、治療としての可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度に未使用額が生じたのは、試薬類の消費とマウス維持費が想定より少なく抑えられたことによる。次年度も研究計画に従い、物品費の購入(試薬類、実験器具類)、旅費(学会旅行費)、論文校正及び投稿等の支出に用いる予定である。
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