研究課題/領域番号 |
24791196
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松澤 大輔 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10447302)
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / 恐怖条件付け |
研究概要 |
青年期に好発する不安障害やうつ病などの精神疾患の発症脆弱性や治療反応性の有無には個人のストレス耐性の差が強く関与していると考えられる。それには出生後に発現調節を受ける、DNAメチル化に代表されるエピジェネティックな現象、特に小児(発達)期における脳内遺伝子のエピジェネティックな再編成の関与が考えられる。本研究ではマウスにメチルドナー制限食を用いて促した小児期のDNAメチル化の再編成が、成長後のストレス耐性、刺激に対する生理的反応、不安・抑うつ・社会性等の行動面に影響を与えることを多角的に検証、発達期脳内遺伝子制御の与える精神疾患への影響を探り、再編成したDNAメチル化の回復が治療につながることを検討した。出生後発達期に遺伝子がある種の要因によってDNAメチル化を含めたエピジェネティックな再編成を受けることは、①その後の精神疾患の発症脆弱性、もしくは②発症に対する抵抗性をもたらし、効果的な治療は発症脆弱性につながった変化を回復させると考えている。そして、そのような変化を受ける脳領域と遺伝子を特定することが将来の治療、創薬のターゲットになると考えている。 メチルドナー欠乏食(FMD食)を発達期マウスに与えて脳内DNAメチル化の再編成を促し、成長後の行動変化とその分子機構を検証した。生後3-6週にFMD食を与えた群では、6週時点のみならず、12週時点にも海馬依存性記憶の障害が認められた。その背景の分子メカニズムには、DNAメチルトランスフェラーゼ3a/bの発現低下が海馬に見られ、まずはFMD食による、DNAメチル化の再編成が大きく関与していると考えられた。さらに、NMDA受容体NR2サブユニットの発現低下、GABA受容体a2サブユニットの低下が6週時点に見られた。これらがメチルドナー欠乏食でない、通常色による成長後(12週時点)に果たして回復可能かどうかを探ることも本研究では目標としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究機関内において、DNAメチル化を中心としたエピジェネティックな遺伝子制御の変化を発達期にもたらすために、C57BL/J系統マウスに、メチルドナー欠乏食を生後3-6週に課す。対照群は通常食飼育群である。その上で、1)脳を含む重要臓器遺伝子のメチル化変化、2)ストレス耐性を中心とした行動解析、3)脳形態と生理的反応の解析、4)NMDA受容体、グルココルチコイド受容体と脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子のメチル化変化、発現変化からDNAメチル化の成長後再編成の影響を検証し、5)薬物と環境による回復可能性を探ることを目的として、実験を施行した。この内、予期せぬ問題(実験室下階での大規模な改修工事による騒音)がH26年1月以来あり、メチルドナー欠乏食を発達期に食事させた後、成長後(12週時)の行動解析、遺伝子発現の解析、及びその結果を踏まえての論文作成がH26年3月までに修了することが出来ず、26年度も継続の申請を行う必要に迫られた。
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今後の研究の推進方策 |
マウス発達期にメチルドナー欠乏食を与えたが、これが行動上、遺伝子発現の違いをもたらしていることは判明した。これが、通常食に戻した時に、果たして行動上、遺伝子発現上、回復をもたらすのかに焦点を当てた研究を継続する。H26年度は、マウス12週時点での行動と遺伝子発現を解析し、すでにほぼまとめてある論文に反映させ、成果を公表することを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験中に予期しない事象(他研究室の工事の騒音)が発生し、それによる動物行動実験の影響があり、再度行う必要がある。また、それによって論文投稿が遅れ、投稿のための費用を使用していない。 動物行動実験のための実験動物購入(30匹x1500円=45000円)、飼料購入(約11万円)、脳内遺伝子発現量解析のための試薬(約5万円)、論文投稿料(約10万円)を予定している。
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