研究課題/領域番号 |
24791208
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小杉 桜子 金沢大学, 医学系, 博士研究員 (50517810)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 大うつ病 / ドパミン / 側坐核 / 腹側被蓋野 |
研究概要 |
大うつ病に対する効果的な薬物療法においては、近年SSRIにドパミン部分作動薬であるアリププラゾールを併用する増強療法が臨床効果の点で注目されているが、その詳しい分子機序は不明である。そこで、アリピプラゾールによる増強療法の分子レベルでの作用機序と、その作用部位として想定される側坐核の大うつ病病態への関与機序について解明を目指す。平成24年度は予備実験として、対照動物のドパミン依存性行動のベースラインを知る目的にてレバ-押し訓練による食餌獲得課題を行ったところ、総計80匹以上の動物のうち、約1/4でドパミン系が予め機能的に低下しているサブグループの存在が示唆された。残った動物では訓練は予想通り成立したが、さらにその約1/3で、残りの動物より早く訓練が成立し、かつレバー押し行動が習慣化されたように見えるサブグループが確認された。すなわち、動物のドパミン依存性の行動は最初から均一ではなく、大きな個体差が存在し、大きく「低意欲群」「高意欲群(=習慣化群)および「中意欲群(=目的指向性行動群)」の3つのサブグループに分類可能と予測された。血清コルチゾールの基礎値についても、低意欲群で有意に低く、かつ急性ストレスに対する反応性が同群のみ有意に高いことが確認され、生化学的にも異質性が強く示唆された。以上の結果よりアリピプラゾールの効果も、この3つのサブグループでそれぞれ異なることが予想された。そこで上記3群それぞれの特異性について、認知機能についてさらに詳細な検討を行い、またストレスを負荷してその後の反応性の違いを確認した。この結果は間もなく投稿の予定である。一方、BDNFの関与に関しては、同シグナル伝達系の下流であるp-TrkB, p-mTOR等について側坐核でタンパク質レベルの検討を行ったが、対照群と慢性ストレス負荷群との間で有意な違いを認めなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、当初の予定では①慢性ストレス負荷後の動物に、SSRIとアリピプラゾールを同時に投与し、対照群および単剤投与群とシナプスタンパク質のプロファイルを比較する、②BDNFシグナル伝達系の関与について側坐核および腹側被蓋野において生化学的に検討し、BDNF系の関与が強く疑われた場合は、同シグナル伝達系を阻害し、うつ病様の行動表現型への影響を検証する、の以上2点を予定した。しかしなから上記のように、対照動物群内に機能的に異なる複数のサブグループの存在が同定されるにいたり、当初の予定のように単純にドパミン作動薬であるアリピプラゾールを動物に投与する、とする実験パラダイムでは、データの解釈に大きな間違いを招く危険性が示唆された。そこで、対照動物群内のサブグループ間の異質性を検証する実験にさらに時間を費やしたため、当初予定していた慢性ストレス後のアリピプラゾール投与による反応の変化の検討は、予定年度内には実施できなかった。しかし、予備検討でさらに興味深い可能性が浮上したため、次年度に上記3群に対して投与し、行動への影響の違いをこの3群間で複数の行動実験の指標を用いて観察を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に明らかになった対照動物群内の3つのサブグループ間の違いについて、さらに検討を進める。具体的には、前頭葉や線条体機能を反映するreversal learningやset shifting課題、衝動性課題などを行い、3群間の違いを検討する。各行動実験の予備検討は既に前年度に終了している。また、動物に小量のドパミン作動薬を急性投与し、その反応性の違いから、ドパミン作動薬に対する各群の感受性の違いを検討する。加えて、この3群に予測不能な慢性ストレス(拘束ストレス、強制水泳、侵入者ストレスのいずれかの連日のランダムな暴露)を負荷し、ストレス負荷終了直後よりSSRIであるescitalpramあるいはアリピプラゾール、あるいはvehicleを3週間連日投与し、これまでに確認されたストレス指標(体重、意欲、運動量、reversal learning)などへの影響を各群、各薬剤群で比較検討し、SSRIやアリピプラゾールが、どの群の、どの指標に効果を示したか(あるいは示さなかったか)を検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、物品購入費(試薬、動物購入、飼育費など)に1,100,000円、国内学会出張費に100,000円、謝金に200,000円、印刷費などを含むその他の支出に200,000円、総計1,600,000円を予定している。大型備品の購入は今のところ予定していない。研究費総額の90%を超える支出項目は存在しない。
|