研究課題
近年,単一遺伝子の変異のみならず,染色体レベルでの重複・欠損が精神疾患をはじめとする各種疾患に認められている.特に自閉症,統合失調症といった精神疾患では,特定の染色体領域と疾患の間に有意な相関が報告されている.このため,精神疾患のさらなる解析には,これまで報告されたヒト患者と同様の染色体異常を有するモデル動物が必須と言える.この事から,本研究では,通常の遺伝子ターゲティング法を改良した染色体工学(Chromosome Engineering)を適用,遺伝的に精神疾患との相関が認められたヒト染色体領域を反映させたモデル動物を作製し,精神疾患発症のメカニズムを解析する事を目的とする.なお,染色体工学は,染色体レベルでの遺伝子改変操作を可能とする唯一の技術である.本研究が対象とする染色体は,小児発達障害(神経疾患,自閉症)患者ゲノムDNAから新規に見出された15q25.2-25.3の欠損である.初めに,バイオインフォマティクスによる解析の結果,本領域はヒト,マウス間で高度に保存された領域である事が分かった.この事は,本染色体領域がヒト型疾患モデルとして妥当な領域である可能性を示唆している.バイオインフォマティクス解析の後,ターゲット染色体領域を除くため,両末端にloxP配列を2段階の遺伝子ターゲティング法によりマウスES細胞にそれぞれ挿入,両者の挿入をPCR/シークエンス/サザンブロット法により確認,その後CreリコンビネースをES細胞に発現する事でターゲット染色体領域を除いた.当初の予定では,本期間中に2種類のターゲティングベクターのデザイン・構築,そして2段階の遺伝子ターゲティング,さらにはCreによるターゲット染色体領域の欠損を予定していたため,本年度は予定通りに進んだと言える.現在,モデルマウス作製に着手したところである.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定(平成24年度の計画)は以下の通りであった.1. ターゲット染色体領域を破壊するため、ターゲット領域の両端に挿入するためのターゲティングベクターを2種類作製する.2. マウスES細胞を用い,ターゲット染色体領域の両端にloxP配列を含むターゲティングベクターをジーンターゲティング法によりそれぞれ挿入,両者の正確な組換えが確認できた後,Creタンパク質をマウスES細胞に導入する事によりターゲット染色体領域の破壊を試みる.Creタンパク質の細胞内への導入後には,実際ターゲット染色体領域が破壊されたか,PCR法/シークエンス/定量的PCR法/サザンブロット法により解析を行う.3. ターゲットとする染色体領域が欠損したES細胞が得られた場合,本ES細胞をマウス受精卵に導入し,遺伝子改変マウス作製を開始する.当初予定していたこれらの事項は,予定通り平成24年度内に完了し,ターゲットとなる染色体領域を破壊したES細胞を得た.実際にターゲットとなる染色体領域が破壊されているかは,4種類の異なる方法,PCR, 定量的PCR, サザンブロッティング, シークエンスにより確認を行った.現在この変異ES細胞をマウスの受精卵に導入し,遺伝子改変マウス作製を開始したところである.
本研究は当初の予定通り,ターゲット染色体領域を改変した変異ES細胞を期間内に得る事が出来た.現在,遺伝子改変マウスを得るために,マウス受精卵へのインジェクションを試みている最中である.一方,本ES細胞は染色体工学を実施する上で,2回に渡る遺伝子操作(ジーンターゲティング),そしてCreリコンビネースの強制発現,さらには通常の遺伝子ターゲティング法を大きく上回る細胞継代数であるため,遺伝子改変マウスを得るための分化能を保持しているかは不明である.現在まで,変異ES細胞の貢献度が高いとみられるキメラマウスは得られていない.しかし,100個以上の変異ES細胞のラインを得ているため,順次形態の良いES細胞をセレクションし,マウス受精卵へのインジェクションを継続する予定である.平成25年度秋頃までには遺伝子改変マウスを得たいと考えている.一方,本手法は,必ずしもターゲット染色体を欠損した遺伝子改変マウスが得られるとは限らない.この場合,既に得られている15q25.2-25.3領域を欠損した変異ES細胞を用い,in vitroの疾患モデルとして神経幹細胞,または神経細胞への分化といった特定細胞における機能解析を行う予定である.
「該当なし」
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