研究概要 |
摂食障害は重症化が深刻な問題であるが,有効な治療法は確立されておらず,病態解明が重要課題である.摂食障害では,中核の精神病理として体型や体重と自己評価に関する情報の認知機能に障害が認められており, 摂食障害の病態を生理的な脳機能局在から理解する必要がある. アレキシサイミアは神経性無食欲症(AN)患者で高率に認められる性格特性であり,AN患者にみられる認知の障害と密接に関連している可能性が提唱されている.本研究は,対人関係ストレスに関連した単語刺激課題遂行時の脳活動をfMRIを用いて測定し,AN患者におけるアレキシサイミア傾向に関連した脳領域を検討することを目的とした.右利きの女性AN患者と健常女性を対象に,MRI装置を用いて対人関係ストレスに関連した単語刺激の認知課題遂行中の脳活動を連続的に撮像した.課題は,対人関係ストレス単語課題と情動的負荷を持たない中性の単語を用いたコントロール課題を交互に3回ずつ繰り返した.各被験者には,TAS-20やEDI-2にて,心理学的・行動学的特徴の評価も行った.中性の単語呈示時と比較して,対人関係ストレスに関連した単語呈示時には,AN患者群では前頭前野領域が賦活された.また,左扁桃体,右後帯状回,右前帯状回の活動はTAS-20スコアとの間に逆相関を認め,アレキシサイミアの傾向が高いAN患者ほど対人関係ストレス関連した不快な単語の認知処理中の扁桃体,後帯状回,前帯状回の活動が低下していることが示唆された.一方,健常群では有意な活動を認めなかった.AN患者の対人関係ストレスに関する不快な情動の認知障害に前頭前野の関わりが示唆された.TAS-20スコアが高いAN患者ほど対人関係ストレスに関連した不快な単語の認知処理中の扁桃体,後帯状回,前帯状回の活動が低いことが示され,アレキシサイミアが重要な一因となっている可能性が示唆された.
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