研究概要 |
近年の研究により、高次脳機能の発現においては、単一の脳機能部位の働きではなく、脳機能部位間の機能的な結びつきの強さ=≪機能的連関≫が重要であることが明らかにされつつある( Stramaglia et al, 2011)。自閉症スペクトラム障害(ASD)患者において異常が認められる機能の多くは、脳機能部位間の≪機能的連関≫により実現されることが明らかになっている。したがって、≪機能的連関≫障害がASDの本質的病因である可能性がある(≪機能的連関≫障害仮説) 本研究は、ASD患者およびASDハイリスク乳児を対象に脳波計測を行い、脳波データを基に評価した≪機能的連関≫の強さとASD症状の関連解明を主たる目的としている。 本研究課題期間中に、機能的連関評価系を立ち上げたほか、乳児の脳波データの縦断的収集を開始した。具体的には、情動的にneutralと考えられるアニメーション観察時の背景脳波(EEG)を計測し、脳波センサー間で記録されたEEGの各周波数における機能的連関の分析系を確立した。さらに、乳児期にみられるASD症状に関連する神経基盤を検証するため、神経伝達物質関連遺伝子多型とASD様行動傾向の関連性に関する予備的検証を行った。具体的には、性腺ホルモンの生体内生物活性発現に関与する児の遺伝子多型と視覚的な社会的コミュニケーション刺激に対する注視反応との関連性を分析した。しかし、解析した一塩基多型と注視反応との間に関連性は見出されなかった。 以上、本研究では、ASDの客観的早期診断指標を確立するため、縦断的研究による機能的連関評価系確立に取り組んだ。最終年度に開始した縦断的追跡は、現在データを集積中である。今後は、このデータセットをもとに、EEG解析によるASD早期スクリーニング技術開発の可否を検討する。
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