研究課題
若手研究(B)
精神疾患患者では、心血管性疾患の罹患率が高いことが知られている。健常者では、自律神経機能の低下が心疾患や肥満と関連することが報告されているが、精神疾患患者における自律神経機能の詳細は未だ未解明である。本研究では、精神疾患患者を対象に自律神経機能を測定し、精神医学的評価、薬物の影響、栄養状態や肥満度、日常活動量などとの関連を大規模に調査した。1.精神疾患患者における生活習慣病罹患率と日常活動量調査 : 対象の統合失調症患者211名とのうち、外来患者群の平均BMI値は「肥満度1」の基準を満たす25以上であり、入院患者群よりも有意に高かった(外来患者群: 25.4±4.6; 入院患者群: 22.7±3.6; p = 0.017)。また、外来患者群は入院患者群と比較して、高血糖、脂質代謝異常の頻度が有意に高かった。高血圧・高血糖・脂質代謝異常・腹囲異常のいずれかの異常を有する頻度は外来患者群で85.7%、入院患者群で22.9%を占め、外来患者群で有意に高かった(p < 0.0001)。また、外来患者群は入院患者群と比較して、1日平均歩数、活動時間、1日エクササイズ、平均週エクササイズがともに低い傾向を示したが有意差は認めなかった。2.精神疾患患者における自律神経活動調査 : 統合失調症患者211名と対照群として健常成人44名を対象とし、心拍変動パワースペクトル解析により自律神経活動を定量化した。統合失調症患者群では対照群と比較して、交感神経活動(p < 0.0001)、副交感神経活動(p < 0.0001)ともに有意に低下していた。自律神経活動の低下は、運動不足や不摂生な生活習慣が関連していることがわかっており、患者群の生活指導の必要性が示唆された。3.患者群においては、食事指導・運動療法として、疾患重症度に合わせ、定期的な教育プログラムとウォーキングやラジオ体操を開始した
2: おおむね順調に進展している
本研究では、精神疾患患者を対象に自律神経活動を測定し、精神医学的臨床データ、身体状況や日常活動量、特定の遺伝子型などを含めて包括的に解析し、精神疾患患者における自律神経活動動態を解明を目的としている。現在までに、患者群の精神医学的診断、罹患期間、薬物療法などの詳細な精神医学的評価のデータ収集、身体測定、一般血液検査、生活活動量計による日常活動量測定、FFQgによる食物摂取頻度調査、心拍変動パワースペクトル解析による自律神活動データの収集を終え、精神医学的臨床データと測定された自律神経機能との相関を解析している。これらの研究成果を、国内・国際学会に発表するとともに、国際学術誌投稿論文で報告した。今後は脳由来神経栄養因子(BDNF)等の生理活性物質の測定を行うとともに、遺伝子多型の検索を行い、これらの結果を網羅的かつ包括的に解析していく予定である。
上記の方法で、引き続き対象患者登録、研究を継続する。可能な患者では、順次、遺伝子多型の検索を行い、その結果を解析する。解析方法は、通常採血の際に末梢血2-3mlを採取し、分離した白血球から抽出されたgenomic DNAを用いる。PCR、long PCR、RFLP法などを用いて、MS関連遺伝子、薬物応答性に関わる薬物代謝酵素遺伝子、神経伝達物質受容体遺伝子の遺伝子型を同定する。また、栄養指導・運動療法を行った対象者では、上記項目の評価、測定を3ヶ月ごとに行い、1年後の改善度を評価し、食事・運動療法による自律神経機能の改善度とMS改善度と精神医学的特徴や遺伝子型との相関を評価する。これらの結果を解析し、順次結果を発表する。遺伝子解析結果も含めた、精神疾患患者における自律神経活動動態の特徴や抗精神病薬との相関、生活習慣病発症危険因子などを薬理遺伝学的に考察し、研究成果を学術誌投稿論文で報告する予定である。
該当なし。
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BMC psychiatry
巻: 12 ページ: 199-204
精神神経学雑誌
巻: 2012特別 ページ: 473