研究課題
精神疾患患者では、心血管性疾患の罹患率が高いことが知られている。健常者では、自律神経機能の低下が心疾患と関連することが報告されているが、精神疾患患者における自律神経機能の詳細は未だ未解明である。本研究では、統合失調症患者における自律神経活動動態を調査し、生活習慣病との関連を検討した。1. 統合失調症患者211名と対照群として健常成人44名を対象とし、心拍変動パワースペクトル解析により自律神経活動を定量化した。統合失調症患者群では対照群と比較して、交感神経活動(Low Frequency Power; LF、p < 0.0001)、副交感神経活動(High Frequency Power; HF、p < 0.0001)ともに有意に低下していた。次に、抗精神病薬の影響を考慮して、全患者群を、抗精神病薬総投与量に従って、高用量群、中等度用量群、低用量群に下位分類し、各群の自律神経活動を比較した。その結果、交感神経活動、副交感神経活動とも、高用量群において中等度用量群よりも有意な低下を示し(LF:p=0.004; HF: p=0.01)、低用量群よりもさらに顕著な低下を示した(LF:p<0.001; HF: p<0.001)。さらに、リスペリドン、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、定型抗精神病薬をそれぞれ単剤で服用中の患者、および2種類以上の抗精神病薬を内服している患者60名を抽出し、薬剤ごとに自律神経活動を比較した。2種類以上の抗精神病薬を内服している群ではリスペリドン単剤群と比較し、交感神経活動が有意に低下していた(P=0.018)。単剤で内服している群同士での比較では、有意差を認めなかった。2.上記のうち、生活習慣病(MS)の診断基準を満たすものは、16名であった。MS群と非MS群の自律神経活動は、交感神経活動、副交感神経活動ともに有意差はみられなかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、精神疾患患者を対象に自律神経活動を測定し、精神医学的臨床データ、身体状況や日常活動量、特定の遺伝子型などを含めて包括的に解析し、精神疾患患者における自律神経活動動態の解明を目的としている。現在までに、患者群の精神医学的診断、罹患期間、薬物療法などの詳細な精神医学的評価のデータ収集、身体測定、一般血液検査、生活活動量計による日常活動量測定、FFQgによる食物摂取頻度調査、心拍変動パワースペクトル解析による自律神活動データの収集を終え、精神医学的臨床データと測定された自律神経機能との相関を解析している。これらの研究成果を、国内・国際学会に発表するとともに、国際学術誌投稿論文で報告した。次に遺伝子型の解析を進めて、自律神経活動と遺伝子型との関連を進める予定であったが、解析出来る対象数が少なく、より有効な関連解析を行うため複数の遺伝子型を対象に検索を行い、これらの結果を網羅的かつ包括的に解析していく予定である。
可能な患者では、順次、遺伝子多型の検索を行い、その結果を解析する。解析方法は、通常採血の際に末梢血2-3mlを採取し、分離した白血球から抽出されたgenomic DNAを用いる。PCR、long PCR、RFLP法などを用いて、MS関連遺伝子、薬物応答性に関わる薬物代謝酵素遺伝子、神経伝達物質受容体遺伝子の遺伝子型を同定する。また、栄養指導・運動療法を行った対象者では、介入後の評価、測定を行い、改善度を評価し、食事・運動療法による自律神経機能の改善度とMS改善度と精神医学的特徴や遺伝子型との相関を評価する。これらの結果を解析し、順次結果を発表する。遺伝子解析結果も含めた、精神疾患患者における自律神経活動動態の特徴や抗精神病薬との相関、生活習慣病発症危険因子などを薬理遺伝学的に考察し、研究成果を学術誌投稿論文で報告する予定である。
H25年度に、リアルタイムPCRを用いたアドレノレセプターの遺伝子型解析を行い、自律神経活動との関連を学会報告する予定であったが、解析できる対象数が少なく、関連も否定的であったため、計画を変更して、PCR-RFLP法による複数の遺伝子型の解析を行うこととしたため、未使用額が生じた。このため、ハプロタイプ解析を含めた複数の遺伝子型の解析と学会報告は次年度行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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臨床麻酔
巻: 37 ページ: 1338-1344
日本精神神経診療所協会ジャーナル
巻: 39 ページ: 28-33