研究実績の概要 |
心的外傷後ストレス障害(PTSD)におけるヒトを対象とした画像研究はすでに発表されており、前部帯状回・海馬・偏桃体などに委縮の報告がある。しかし、ヒト対象の研究においては上記変化とストレスとの因果関係を議論する上で、生育歴や個々の遺伝素因などの制限がある。上記を回避する方策として、PTSDのストレスモデルをもちいた動物実験が企画された。また、Voxel-based morphometry(VBM)解析はMRI画像をもちいた解析protocolとして、とくに網羅的・探索的に解析することが可能であり、研究者側のバイアスが入りにくい解析と考えられている。上記解析方法を用いてモデルストレスにより直接的に変化がおこる脳部位を画像研究手法を用いて検証した。 PTSDのモデルストレスとしてはsingle-prolonged stress(拘束2時間・強制水泳20分・エーテル麻酔を連続負荷)を用い、ストレス7日後に灌流固定し頭蓋骨ごと取り出した脳のMRIを撮影した。比較対象にはエーテル麻酔のみ負荷し、同様に脳のMRIを撮影した。 結果として上記によって得られた画像データをVBM解析した結果、両側視床・右体性感覚野に有意な委縮を認めている(PTSDモデル:n=18, Sham:n=17; set level p<0.001, cluster-FWE corrected P<0.05)。 本研究によりストレスと脳委縮の因果関係は明瞭と考えられる。また、モデルストレスは恐怖・学習よりも身体面における要素が強いと考えられ、身体感覚を中心とした入力系における過剰入力があったと推察される。加えて、視床についてはグルタミン酸による神経伝達が行われている場所であり、グルタミン酸の過剰入力が神経細胞死をもたらす可能性はあったのではないかと考えている。
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