研究実績の概要 |
発作原生及び、てんかん原生獲得に関わる中枢神経系の初期発達過程の異常を解析する為、日本で樹立されたヒト側頭葉てんかんの自然発症モデル動物であるELマウスの初期神経発達期に生じる異常をin vitroで再現する事を目標として、本研究では以下について取り組んだ。 樹立したELマウス由来胚性幹細胞(ES細胞)からの終脳由来神経幹細胞及び神経系細胞の分化誘導においては、高効率な分化誘導法であるNeural Stem Sphere(NSS)法をES細胞コロニーのコンパクション形成能が低い事等を考慮して適宜改良して用いた。その結果、浮遊培養(4日間)に伴い、効率良くEmx1陽性神経系細胞へと分化した。また、浮遊培養を更に継続した場合、ELマウス由来ES細胞から分化した神経幹細胞(NSC)が神経細胞のみならず、アストログリア細胞へと分化する傾向が強い事が示された。この多分化能に関わる性質の傾向は、通常用いているC57BL/6由来のES細胞とは異なった。他方、NSSを増殖因子(FGF-2, EGF)存在下で接着・遊走により得られたNSCは通常の増殖能、多分化能を維持していた。したがって、増殖因子等を積極的に加えていないNSS法での浮遊培養条件においては、神経系細胞への終末分化に関わる因子への応答性などELマウス由来NSCの生物学的特徴を反映した結果であると推測した。これまでグリア細胞のてんかんへの関わりについては、シナプスから分泌された神経伝達物質の取り込みや炎症性サイトカインの分泌への関与が主に議論されてきた。また、異常な苔状線維突起形成と並んで、発作に伴うNSCからの過剰な神経新生もてんかん原生に関わる機序の1つとされてきた。今回の研究結果は、ELマウスのてんかん原生獲得の機序にNSCの多分化能に関わる性質の違いやNSCから分化したグリア細胞についても検討する必要性を示すものである。
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