研究課題/領域番号 |
24791232
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
藤城 弘樹 順天堂大学, 医学部, その他 (20536924)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経病理 / 神経基盤 / ドパミン |
研究概要 |
非認知症患者においてもレビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)の臨床診断基準の示唆・支持症状が認められることが明らかとなり、を確認し、記憶障害出現時におけるそれらの前駆症状の病歴聴取の有無が、DLBの早期診断に有効であることを報告した。特にアルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)患者と健常高齢者と後方視的に比較検討した結果、DLB患者では、記憶障害が出現した時点において、有意にレビー小体病を示唆する症状が高頻度に出現し、前駆症状として認知症発症前に数年から数十年単位で先行していることが明らかとなった。とくに嗅覚障害、3日以上の便秘、夜間睡眠時の大声・叫び声は特徴的な症状であり、比較的高い感度・特異度をもって、DLBとADの鑑別診断が可能であった。質問紙票を用いた簡便で非侵襲的な方法であり、神経画像による確定診断前のスクリーニングの方法として有用であると考えられた。さらに、2007‐2009年に施行されたFDG-PET画像において、一次視覚野の糖代謝低下を認めた非認知症患者を対象として、その後の臨床経過について追跡調査を行った。これらの症例では、ベースラインの段階で前駆症状を認める症例が数多くあり、MIBG心筋シンチグラフィーにおいても取り込みの低下を認めた。3年以上フォローアップした症例における追跡調査では、ベースラインの糖代謝低下が1次視覚野に比較的限局する症例においては、認知機能は経過中安定していたが、1次視覚野に加えて、頭頂葉・外側後頭葉領域に糖代謝低下が広がる症例では、認知機能低下が認められ、Probable DLBに進行していた。これらの結果から、1次視覚野の糖代謝低下と前駆症状が、DLBの発症前から存在する所見であることが明らかとなり、早期診断のために役立つ可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度において、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)の臨床診断における神経画像のみならず、神経画像を施行する前の前駆症状に関する質問紙票を作成し、DLBのスクリーニング方法を構築することができた。これは、神経画像を施行する前段階として、侵襲的である検査方法の対象を選別することを可能にしたことを意味し、臨床実地において有意義であると考えられた。さらに、神経画像として、[18F]fluoro-d-glucose (18F-FDG) positron emission tomography (PET) スキャンのみならず、心筋[123I]-metaiodobenzylguanidine (MIBG) シンチグラフィにおいても、1次視覚野の糖代謝低下と心筋の取り込みの低下を認知症発症前に出現する症例が存在することを明らかにし、神経画像における神経病理学的背景を考察するうえで、非常に重要な臨床所見であると考えられた。アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の前駆状態の神経画像の知見は集積されつつあるが、DLBの前駆状態の知見がほとんどないことを考慮すると、ブラークの病理学的進展様式に関する仮説の妥当性を考察する上で、非常に重要な所見であると考えられる。さらに申請者の研究課題である神経画像の病理学的背景を明らかにする目的においても非常に示唆的であり、今後の臨床病理学的検索を行う上で重要な所見であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
[18F]fluoro-d-glucose (18F-FDG) positron emission tomography (PET) スキャンのみならず、心筋[123I]-metaiodobenzylguanidine (MIBG) シンチグラフィにおいてもレビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)の前駆状態で陽性所見を呈する症例が存在することが明らかとなった。さらに、ベースラインにおいて認知機能に有意差が認められなかったが、糖代謝低下の多様性を認め、そのパターンにより、進行する症例(コンバーター)と進行しない症例(ノンコンバーター)が存在することが明らかとなった。つまり、コンバーターにおいては、一次視覚野に限局せず、既にベースライン時に頭頂葉・外側後頭葉領域に糖代謝低下が認められた。コンバーターのベースライン時に既に認められた糖代謝低下所見を呈する神経基盤の病理学的背景を明らかにすることが出来れば、コンバーターに対する介入方法を検討することができると考えられる。さらに、DLBの病理学的診断基準に明記されているように、病変分布のみでは、臨床症状との一対一の対応は示されておらず、Likelihoodの臨床病理学的概念により、臨床症候群を規定することが示されている。つまり、認知症発症前に存在する神経基盤の多様性について検討することで、精神症状、とくに幻覚妄想の発現機序を明らかにして、症状発現前の介入方法について構築できる可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)のみならず、当初の予定であった変性性認知症であるアルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)、嗜銀性グレイン病(Argyrophilic grain disease: AGD)に加えて、機能的精神疾患とされる双極性障害、統合失調症、うつ病などの剖検脳を用いて、異常蛋白蓄積による神経細胞脱落のみならず、疾患発症前の神経基盤を意識した神経病理学的背景について検討を行う。既に報告されている精神症状との関係から、とくに前部帯状回や前頭葉の神経ネーットワークの構築を定量的に評価を行う。変性疾患では、神経細胞脱落によって、評価が困難となる可能性が考えられることから、変性疾患発症前と考えられる剖検脳についても同様の評価を行う。このとき、標準化されたプロトコールを用いて、タウ病変、シヌクレイン病変、アミロイド病変について神経病理学的評価を行う。さらに、パーキンソン病ではアミロイド病変の脳内分布が正常加齢と異なると報告されているが、加齢性変化に対する脆弱性という観点から、疾患特異性の有無とともに、AGDを含めたタウ病変、シヌクレイン病変についても検討を行う。剖検脳については、既に名古屋大学に保存されているものを用いるが、必要に応じて、これまで申請者が研究協力してきた順天堂大学、横浜市立大学、東京都総合医学研究所と協力していく予定である。
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