本研究課題はADHDにおけるシナプスレベルでの変異を探り,それをもとに治療薬を提案することを最終目標とした.ADHDモデル動物として自発性高血圧発症ラット(SHR)を対照ラットとしてWKYを用いた.責任部位とされている領域(前頭前野・小脳虫部)からスライス標本を作製し,神経細胞にホールセルパッチクランプ法を適用した.GABA応答として誘発した抑制性シナプス後電流(eIPSC)を記録し,ドーパミンとノルアドレナリン,セロトニンにより受ける修飾効果を検討した.前頭前野内側部(medial prefrontal cortex; mPFC)では前辺縁皮質(prelimbic cortex; PL)と前帯状回(anterior cingulate cortex; ACC)の第五層錐体細胞から記録した.一方,小脳ではプルキンエ細胞から記録した.四週齢の小脳プルキンエ細胞ではアドレナリンβ作動薬の投与によりeIPSCの振幅増大効果が見られたが,SHRとWKYの間で有意差を認められなかった. また,PLでは二週から四週齢において修飾効果はSHRとWKYの間に有意差を見いだせなかった.しかし,ACCでは四週齢でドーパミンの投与によりWKYではeIPSCの振幅を増大させるが,SHRではその修飾効果が有意に減少していた.対して,同部位でのノルアドレナリンとセロトニンによる修飾効果はSHRとWKYの間で差はなかった.さらなる実験から,ドーパミンD1様受容体遮断薬存在下ではドーパミン投与によるeIPSCの振幅増大効果は見られず,ドーパミンD2様受容体遮断薬存在下ではドーパミン投与によりeIPSCの振幅増大効果が見られた.また,ドーパミンD1様受容体作動薬の単独投与によりeIPSCの振幅増大効果が見られ,ドーパミンD2様受容体作動薬の単独投与ではeIPSCの振幅増大効果は見られなかった.これらの結果からドーパミン投与によるeIPSCの増大効果はドーパミンD1様受容体を介していると考えられた.この振幅増大効果の違いが何に起因するのかを解明する必要がある.
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