アルコール依存症は深刻な社会問題であるが、その病態機序がまだ明らかになっておらず、根本的な治療法が確立されていない。近年、サブスタンスPの受容体であるタキキニンNK1受容体に対する拮抗薬が、アルコール依存症患者の飲酒渇望を抑制すると報告されており、アルコール依存症の新しい治療薬として期待されている。本研究では、脳内ドパミン系で調節される報酬機能がアルコール依存症患者で障害されていることに着目し、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)および陽電子断層画像(PET)検査によって、健常者およびアルコール依存症患者を対象にNK1受容体拮抗薬の報酬機能に対する効果およびドパミンの動態変化を調べる。一昨年度は、健常成人を対象にプラセボおよびNK1受容体拮抗薬服用後にfMRI検査を行い、報酬課題遂行時の脳活動を調べた。プラセボ服用と比較すると、NK1受容体拮抗薬服用により報酬予測時の側坐核の活動が有意に減少していた。昨年度以降、健常者と比較してアルコール依存症患者で有意に脳活動が異なる領域を検出する予定であったが、患者のリクルートが困難であったため、患者の代わりにアルコール依存症の高リスク群である多量飲酒者を対象とし、対照を少量飲酒者に変更して検査を行っている。今年度は被験者数を増やして検査を継続した。未服薬において、報酬予測時における側坐核の脳活動は、少量飲酒者と多量飲酒者との間に有意差はみられなかった。多量飲酒者において、報酬予測時における側坐核の脳活動とアルコール摂取量との間に正の相関がみられた。過去の研究では、側坐核における報酬予測時の脳活動とドパミン放出量が相関していることが報告されているため、本研究の結果から、より多くアルコールを摂取する多量飲酒者の側坐核では、報酬予測時にドパミン放出量が増加している可能性が示唆された。
|