本研究は,統合失調症の発症危険状態(At Risk Mental State: ARMS)に対するN-acetylcysteine(NAC)の精神病発症予防効果を,前向き縦断的研究により明らかにすることを目的としている。平成27年度は,試験完遂例のケースシリーズをJournal of Clinical Psychopharmacologyに投稿し,掲載された。 NAC(2000mg/日)をオープンラベルで12週間投与した症例に対し,臨床評価を試験開始時,12週後と24週後に実施した。主要評価項目は,前駆症状評価スケール(SOPS)得点の変化および精神病への移行の有無とした。副次的評価項目は,統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)の各下位項目得点,統合失調症認知評価尺度(SCoRS),UCSD日常生活技能簡易評価尺度 (UPSA-B),統合失調症の生活の質評価尺度 (SQLS)および核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を実施した。本研究は聖マリアンナ医科大学生命倫理委員間の承認を得て,対象者から文書同意を取得した。 24週までの評価を完遂した5症例のSOPS総得点は,39.6±13.6点から21.4±23.7点に改善した(p=0.08)。試験中重篤な有害事象はなく,4症例はARMSの基準を満たさなくなった。BACS総得点のz-scoreは-0.44±1.06から0.19±0.79と有意に改善した(p=0.043)。また,SCoRS得点は,5.20±2.49から3.80±2.17と有意に改善した(p=0.038)。UPSA-B得点およびSQLSの心理社会関係得点および動機と活力得点も改善を認めたが,有意差は得られなかった。以上より,NACはARMSの臨床症状,認知機能,機能的能力や主観的評価への改善効果を有する可能性がある。我々の知る限りでは,ARMSにおけるNACの有用性を示唆した初めての報告と思われる。今後も症例数を増やし,通常治療との比較やMRSの結果の詳細な検討が必要である。
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