研究課題/領域番号 |
24791248
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
戸田 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 助教 (00610677)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 母子分離ストレス / 恐怖記憶 / 消去 / 再固定 |
研究概要 |
生後1日目から14日目にかけて、一日3時間、28度~30度に設定したインキュベーターに仔ラットを母ラットから分離して、仔ラットが成獣後の行動評価を行った。母子分離ストレスを負荷したラットは、恐怖条件付文脈テキストを用いた実験で、足下電撃ショックの24時間後の同一箱への5分間の暴露(1回目)によるすくみ行動に変化を認めなかったが、48時間後の2回目の5分間の暴露においてすくみ行動が増強していた。強制水泳試験やオープンフィールド試験では、通常飼育との行動の差は生じなかった。この結果より、母子分離ストレスを負荷されたラットは、成獣後のストレスを負荷しない状態では、抑うつ行動や自発行動量には変化を認めないが、恐怖条件付けされた記憶の再固定が増強していると考えられた。 次の段階として、母子分離ストレスを負荷されたラットの恐怖記憶の消去のメカニズムを探索するために、まずはnaiveなラットを用いて恐怖記憶の消去過程のモデルの作成を試みた。足下電撃ショックの24時間後に30分間同一箱に暴露する群と、5分間暴露する群とに分け、さらに48時間後に5分間同一箱に暴露してすくみ行動の変化を測定した。1回目に30分間暴露した群は恐怖記憶の消去が進み、48時間後に再暴露した際に5分間暴露した群と比較すると、すくみ行動が減少している傾向を認めた。しかしながら、統計学的に有意な減少ではなかったため、現在、初日の足下電撃ショックの回数(1~5回)と強度(0.5 mA~1.5mA)の条件を変えて、最も適した条件設定を行っている。 また、母子分離ストレスを負荷したラットの成獣後の脳内のepigeneticな変化をMethylation specific PCR(MSP)で測定するために、まずはnaiveなラットの扁桃体、海馬のmRNA、DNAを分離してMSPの準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PTSD(外傷後ストレス障害)などの不安障害は、恐怖記憶の再固定や消去の過程の障害がその発生と関連しているといわれている。幼少期の不適切なストレスは、PTSDを初めとする不安障害のリスク因子となることが知られている。我々の母子分離ストレスモデルラットは、恐怖記憶の再固定の障害を認めている。当初の予定では、恐怖記憶の再固定の観点から脳内の分子メカニズムの解明を行う予定であったが、その前に母子分離ストレスを負荷したラットの恐怖記憶の消去過程に障害がないかどうかを調べることにした。恐怖記憶の消去の過程は再固定と同様に、不安の病理形成に重要である。また、近年の研究によって、消去と再固定では脳内分子メカニズムに相違があることが分かっており、恐怖記憶の消去過程のメカニズムの解明も重要な点であるからである。 以上のように、当初予定していた実験以外のものも加えることとなったので、研究の目的の達成度がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
①引き続き、ラットの恐怖条件付けテキスト(CFS)を用いた実験で、恐怖記憶の消去過程の実験系を確立する。 ②MSラットの成獣後のNTSR1のepigeneticな変化をMethylation specific PCR法で評価する。これまでの申請者はMBD2b/MBD3L1複合タンパクのカラムに吸着させる方法で、NTSR1 DNAのプロモーター相当領域をDNAのメチル化が亢進していることを見出している。次のステップとしてMethylation Specific PCR法によってNTSR1 DNAの更に詳細な部位のメチル化の程度を検討する。 ③MSラットの扁桃体のDNAのメチル化をreverseして不安行動への影響を検討する。MSラットの扁桃体に、DNAメチル化阻害剤(5-Azacytidineなど)を局所注入しDNAのメチル化をreverseして、CFSでの不安行動を測定する。その結果、不安行動が減弱すれば、母子分離ストレスの不安行動への脆弱性に扁桃体のDNAのメチル化が関係していることを証明できると考える。 ④Chronic mild stress (CMS)や拘束ストレスなどMSと異なったストレスを負荷したラットを用いて、不安行動やその機序を検討して、MSラットとの差異を検討する。うつ病などの慢性ストレスモデルとして頻用されているCMSや、PTSDなどの急性ストレスモデルとして頻用されている拘束ストレスを負荷したのちに、open field test, elevated plus maze test, tail suspension test, forced swim test, CFS などの種々の行動解析を実施する。その結果、不安行動の亢進が存在するのであれば、MSを負荷したラットで行なったのと同様に、扁桃体でのmRNAの発現の変化やepigeneticな変化などを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
行動実験に使用するラット、各種解析に使用する試薬・キットに使用する。また、より効率的にCFSの実験を進めていくために、現在1台しかないCFS測定装置を、2台~4台に増設することを検討している。また、本研究の成果を発表するための海外等の学会参加の旅費や参加費としての使用も考えている。
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