研究課題/領域番号 |
24791258
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮本 直樹 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (00552879)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 4次元放射線治療 / X線透視 / 動体追跡 / 呼吸同期 |
研究概要 |
呼吸などにより体内で動く腫瘍に対する放射線治療では、その動きを考慮した治療放射線の投与を考える必要がある。現在では、2方向から腫瘍周辺をX線透視し、腫瘍近傍に留置された体内マーカーの3次元位置を把握することで、所定の位置でのみ照射をおこなう呼吸同期放射線治療が有効な手法の1つとして臨床応用されている。しかし、2組のX線透視装置を用いるシステムでは、装置の設置スペースや導入時のコスト等が問題の1つとなる。 本研究では、より汎用的な呼吸同期放射線治療を実現するために、1組のX線透視装置のみを用いて、2組のX線透視装置を用いるシステムと同様に、体内マーカーの3次元位置を計測することが可能なシステムを開発することを目的としている。平成24年度は、申請時に計画していた(1)X線透視装置の配置の検討と(2)測定精度解析を実施し、提案手法の実現可能性を評価した。(1)に関しては、X線発生装置と検出器の位置関係に加えて、検出器での体内マーカー検出精度が、3次元位置の計測精度に大きく影響することがわかったが、これまでに開発したサブピクセル精度でのテンプレートパターンマッチング技術により、体内マーカーの3次元位置測定精度±2mmを実現できることを示した。また、(2)については、実際の放射線治療に用いられた体内マーカー位置および呼吸運動情報を利用し、測定精度評価を解析的に実施した。これらの結果を第104回医学物理学会学術大会(2012年9月13-15日、つくば)にて報告し、優秀研究賞を受賞することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究開発の達成度は、おおむね順調に進んでいると判断している。申請時の実施計画に沿った研究開発を進めており、ほぼ想定通りの結果を得ている。具体的には、実際の臨床データから、70程度の体内マーカー位置情報および300以上の呼吸運動データを用いて、体内マーカーの3次元位置測定精度を評価した。臨床上で許容できる測定誤差を±2mmとすると、解析したケースの半数以上で、本手法による呼吸同期放射線治療が適用できる可能性を示すことができた。一方で、透視装置のアライメントの最適化により、さらなる向上が見込まれるため、次年度に継続して検討を進めることとした。また、現時点までで得られた評価を学術大会にて報告し、優秀研究賞を受賞できたことから、本研究開発で進めている新しい手法に対する注目度も高いと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、X線透視の位置および方向により、測定精度を向上できることがわかっているため、X線透視装置のアライメントの最適化方法を継続して検討する予定である。 並行して、実験による測定精度の評価に使用するソフトウェアを開発する。ここで、体内マーカーの位置計算に要する計算時間は、治療ビームの照射/停止の時間遅れに相当することから、極力短くする必要がある。現在までに開発している計算アルゴリズムはNewton法をベースにしており、計算時間は数msecであるため、その影響は無視できると考えている。今後、計算時間の定量的な評価を進めるとともに、異なる解へ収束した場合の判定方法などを実験用ソフトウェアに実装する予定である。 実験による精度評価のために、多軸のモーションコントローラを用いた動体ファントムを製作し、実験による測定精度の検証を実施する予定である。実際の治療で得られた呼吸データを動体ファントムのインプットデータとして利用し、呼吸運動を再現さえた状態での評価を予定している。また、X 線透視動画記録装置によりX 線の連続透視画像を動画として記録し、記録データに対して解析することで、マーカー認識アルゴリズムや測定精度の比較を定量的におこなうことを計画している。 以上の評価がまとまった段階で論文として投稿する(投稿雑誌はMedical Physics を想定)予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は提案する測定手法のアルゴリズム開発を進め、既存の臨床データから測定精度を解析的に評価することを目的とした。この目的で、計算用のPCの導入等に研究費を充て、実際の画像から体内マーカ位置を認識するための画像処理ライブラリの導入を次年度に繰り越したため、未使用額が発生した。したがって、次年度に画像処理要用のライブラリを導入する予定である。 また、実験による精度評価の目的で、多軸モーションコントローラを導入する。一般的に、体内での呼吸運動は単純な1次元運動ではなく、複雑な3次元軌跡を描くため、3軸以上の動作が可能で、かつ実際の呼吸運動を再現できる高精度な動体ファントムを製作する予定である。また、計算アルゴリズムや測定精度の定量的な評価を実施するために、30フレーム/秒のX線透視画像を非圧縮で記録することが可能な装置を導入する。得られた成果を国内、国外の学会でそれぞれ1回報告することを計画している。
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