Braakらは、特発性パーキンソン病患者のシヌクレイン免疫染色画像を用いて、脳内における連鎖的な病態進行仮説、つまり延髄・橋被蓋・基底前脳・中間皮質・新皮質の順に、病変が拡散していく仮説を提唱している。本研究では、パーキンソン病のモデル動物を用いて、病態進行仮説であるBraak仮説を検証する事、また早期治療で重要となる病態発症以前の脳内萎縮メカニズムを明らかにする事、を目的とした。モデル動物には、ミトコンドリア阻害剤であるロテノンを腹腔内に投与するラットの動物モデルを用い、ロテノン投与前と投与開始後1週間のMRI画像を取得し、経時的な脳の形態変化を観測した(予備実験として実施)。MRI画像解析では、当研究室で開発したラットのアトラスMRIテンプレートを用いて、脳形態の統計画像解析法であるvoxel-based morphometry(VBM)法を適用した。縦断的なVBM解析の結果、ロテノン投与後1週間のラットの脳では、延髄や橋といった白質分画では無く、皮質を中心とする広範囲の灰白質分画に、有意な局所体積の減少が確認された。特に、嗅結節、梨状皮質、島皮質、腹側海馬などに、顕著な灰白質体積の減少が確認された。つまり、ロテノンの投与モデルでは、Braak仮説で提唱されている延髄や橋ではなく、嗅覚に関わるとされる広範囲の皮質において、脳の萎縮が開始すると解釈できる。パーキンソン病患者では、運動症状が出現する4~6年前に嗅覚障害が出現することから、ロテノンの投与モデルは、パーキンソン病患者の初期症状を研究する動物モデルとして有用であることが示唆される。従来の動物モデルでは、ドパミン選択的な神経毒である6-OHDAを、脳の線条体に投与するモデルが広く使用されてきたが、ロテノン腹腔内投与モデルは、新たな脳内作用点での薬物治療開発に貢献できる可能性を示唆している。
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