研究課題
若手研究(B)
悪性脳腫瘍は高い増殖性と遊走性という特徴を持っており、脳内を浸潤性に広がるため治療が困難である。放射線照射に伴う”遊走・浸潤”による機序や、これを抑止し阻害するための方策の手掛かりを解明することは、脳腫瘍における今後の放射線治療の向上にとって重要な課題である。本研究はX線および炭素イオン線照射による悪性脳腫瘍細胞の走行性(遊走・浸潤能)の影響について定性的・定量的に評価することを目的として実験を行った。O6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ (MGMT)遺伝子発現の異なるヒト神経膠芽腫細胞4種を用いてX線または炭素イオン線を照射し、継時的にサンプルを回収して増殖および遊走能について解析した。今年度までに得られた結果は、1.照射後の細胞の遊走能についてwound-healing assayにより評価した結果、X線および炭素イオン線の単回照射は神経膠芽腫細胞の遊走能を線量依存的に亢進した。2.照射した細胞を24時間培養した後に各線量ごとに培地を回収し、その培地を用いて非照射細胞を培養した結果、非照射細胞の遊走能は照射線量に依存して亢進が認められた。照射1週間後の培地を用いた実験からも同様な結果が得られた。3.遊走能の亢進には照射した細胞から放出されたグルタミン酸が関与していることが示唆された。4.遊走能の亢進にはMGMT遺伝子の発現が関与していることが示唆された。遊走能の亢進における炭素イオン線のLET依存性および分割照射効果については現在解析中である。
2: おおむね順調に進展している
これまで炭素イオン線照射により腫瘍細胞の遊走・浸潤性は抑制されるのか促進されるのかはっきりとしていなかった。本研究における現在までの研究結果から、X線および炭素イオン線照射は、神経膠芽腫細胞の遊走能を亢進することが明らかとなった。また、遊走能に関与する分子の一部を明らかにすることができた。炭素イオン線の線質および照射回数の違いと神経膠芽腫細胞の走行性との相関関係について明らかにすることに関してはまだ達成できていないが、現在解析中であるため予定期間内には明らかにできるものと考えている。
神経膠芽腫細胞における走行性に関する線質効果および分割効果について、早急に解析を進める。また、今年度までに結果として得た走行性に関与する分子に特に着目し、さらに詳細なメカニズムの解明を推し進める。これら成果について速やかに英語論文化して国際誌に研究成果を報告するとともに、国内外の医学・生物学領域の学会での講演発表を積極的に行う。
細胞培養に関する消耗品、解析に必要な薬剤やキットなどの薬品類・実験器具類、動物購入・飼育に関わる費用等への使用を計画している。また、日本国内および国際学会におけるいくつかの学会での成果発表に必要な交通費・宿泊費、また論文投稿料および英文校正費等への使用を計画している。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
J Radiat Res
巻: 53 ページ: 87-92
巻: 53 ページ: 545-550