Mammalian target of rapamycin(mTOR)はAkt-PI3 kinase経路の下流の蛋白であり、近年、mTORが低酸素条件下の細胞生存に関連する蛋白として注目されているが、低酸素条件下の放射線抵抗性に関するmTORの関連については解明されていない点が多い。通常酸素、低酸素状態におけるmTOR阻害剤による放射線感受性の修飾について検討した。実験にはヒト肺腺癌由来細胞株A549を使用した。mTOR阻害剤は最終濃度1nMに希釈し、X線照射前48時間暴露させた。低酸素条件として低酸素照射機(京都科学)を使用し、酸素分圧<0.1mmHgで24時間培養後に照射し、1時間<0.1mmHgで培養後に希釈培養し、細胞生存率をcolony assay法で解析し、細胞の生存が10%となる線量(D10)から酸素増感比を求めた。結果、X線単独では通常酸素、低酸素条件下のD10は、5.1Gy、14.2Gyで、酸素増感比は2.8であった。mTOR阻害剤併用下では通常酸素、低酸素条件下のD10は、4.8Gy、5.4Gyで、酸素増感比は1.1であった。 タンパク発現はウェスタンブロット法で解析した。通常酸素、低酸素条件下ともmTOR阻害剤併用下ではmTORの発現は同様に抑制された。また、mTOR阻害剤併用により、低酸素条件下で誘導されるHIF-1aの発現は濃度依存性に減少した。リン酸化p70 S6キナーゼとリン酸化4E-BP1の発現については、これらの発現は低酸素条件下では観察されず、通常酸素条件下での発現がmTOR阻害剤併用により抑制された。 mTOR阻害薬により、低酸素条件下での放射線増感効果が認められ、mTORが低酸素細胞の放射線治療抵抗性に関連する因子である可能性が示唆された。その作用メカニズムにはmTOR阻害薬によるHIF-1a発現低下が関連している可能性が考えられた。
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