研究課題/領域番号 |
24791287
|
研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
高島 好聖 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 助教 (70525592)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 11CO |
研究概要 |
11CO(一酸化炭素)は、医薬品や生理活性物質に高い頻度で出現するカルボニル構造を構築するための有用な放射性シントンである。複数のグループにより11COを用いる標識反応開発が報告されているが、特殊な合成装置を使用したり、操作が煩雑であったりして、限られた施設でしか利用することができないのが現状である。本研究では、反応性の高いボロン酸エステルを11COの反応前駆体として利用することに着目した。予備実験の結果、既存の方法に比べ、簡便に11COを捕集し、反応を行うことが期待できる。汎用されている単純な合成装置を用いて、どのようなサイクロトロン施設でも11COの標識反応が実現可能となれば、柔軟な分子設計から生み出されるPETプローブの充実を通して、イメージング研究の発展が期待できる。 以上の目的を達成するため、1年目は、①11COの製造、②11COカルボニル化反応による安息香酸エステル、ベンズアミドの合成について検討した。その結果、①モリブデンを875℃に加熱することで、11CO2(二酸化炭素)の還元反応が進行し、11COを再現よく得ることが可能となった。②ボロン酸エステルを前駆体として用いる11COカルボニル化反応は、安息香酸エステル合成のための予備実験から、11COの捕集効率が低い点、また、大過剰のアルコールを利用する点に問題があった。そこで、アルコールの等量を減らした上で、10種類の配位子について捕集効率を検討し、90%以上の高い捕集効率を示す配位子を同定することに成功した。また、予備実験の結果に基づき、ベンズアミドの合成にも着手したが、現在のところ、ウレア体のみしか得られていない。本研究では、11COを用いる反応の一般性を証明するため、①および②の検討は、市販の合成装置にセラミック型高温炉を設置したのみの単純なシステムを用いた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画では、①11COの製造、②11COカルボニル化反応による安息香酸エステル、安息香酸、ベンズアミドの合成について検討を行い、③α7イメージング剤(R)-[11C-carbonyl]MeQAAの合成と応用へと展開する計画であった。しかしながら、現在までに①は達成したものの、②については途中の段階である。一方で、②の検討からは、非常に高い効率で11COを捕集する反応系を同定することに成功しており、今後の展開が大いに期待できる。以上の理由から、自己評価は、『やや遅れている』とした。具体的な進捗は以下に記載する。 ①11COの製造 11CO2(二酸化炭素)は、875℃に加熱したモリブデンカラムに通すことで還元され、平均60~65%の変換率で11COとなった。モリブデンは、使用頻度に応じて変色することが明らかとなり、11COの製造前に色を確認することで、再現性の高い11COの製造が可能となった。 ②11COカルボニル化反応の検討 2012年に報告した[11C]安息香酸メチルエステルの合成法を参考に、(R)-[11C-carbonyl]MeQAAの合成を試みたところ、目的物をHPLCにて確認できた。しかしながら、用いるアルコールの量を少なくしたために、捕集効率も悪く、反応の進行も遅かった。そこで、アルコールの量を減らしつつ、ホスフィン配位子のスクリーニングを行い、tris(2,6-di-methoxyphenyl)phosphineを配位子として用いた際に、11COが90%以上反応溶液に捕獲され、80℃で5分間反応を行うことで効率よく目的物を得ることに成功した。ベンズアミドについては、パラジウムや配位子、塩基を変えるなどして、検討を行っているが、現在までに目的物は得られておらず、引き続き検討を行う必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
当初想定していたよりも反応開発の難易度が高かったため、24年度の計画(②11COカルボニル化反応の検討、③α7イメージング剤(R)-[11C-carbonyl]MeQAAの合成と応用)を引き続き実施するとともに、25年に計画していた④新規α7サブタイプイメージング剤の開発および⑤11COによるカルボニル化反応の応用についての検討も並行して進める。 [11C]安息香酸エステルの合成法の開発については、最適化がほぼ終了しており、実験③で目的としていた(R)-[11C-carbonyl]MeQAAの合成に着手する。また、実験⑤で計画していたアルキル鎖へのエステル基の導入についても並行して検討を行う。これらの結果が得られ次第、論文にまとめる。[11C]ベンズアミドや[11C]安息香酸合成については、引き続き、反応条件の検討が必要である。副生成物から得られる反応のメカニズムや問題点を考察し、新たな反応条件を確立する。エステル反応と同様に、条件が最適化できた際には、実験⑤で計画していたアルキル基上への導入についても検討を行う予定である。 (R)-[11C]MeQAAが合成できた場合には、比放射能の評価とPET研究を開始する(実験③)。 実験④に関しては、(R)-MeQAAの構造を元に、化合物をデザインし、コンピューターシュミレーション(シュレーディンガー社・Glide)によりニコチン受容体α7サブタイプのホモロジーモデルとのドッキングスタディーおよび物性計算(分子量、脂溶性、極性表面積)を行う。それらの中から、GScore値(タンパク質と化合物との相互作用を評価する数値)の高い化合物を選択、物性計算の結果と合わせて化合物を絞り込み合成する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
反応のスクリーニングを更に展開するために、試薬・ガラス器具・HPLCカラムといった消耗品を中心に購入予定である。また、比放射能の向上に関しては、装置の配管などを交換する必要があると考えられるため標識合成装置の部品も購入する。 その他学会発表、論文投稿用に残りの予算を使用する計画である。
|