研究課題
心筋炎は心筋をメインとした炎症性疾患である。我が国における循環器疾患総体の中では、発症頻度の少ない疾病に属するが、無症状から突然死まで幅広い病像を示す。心筋炎の診断方法には診察所見に加え、胸部レントゲン検査、心電図、心エコー図、血液検査などを行うが、診断が確定できない場合も少なくない。そこで、心筋組織を直接採取する心筋生検は非常に診断率が高い検査といえるが、慢性期では繰り返し生検して経過を見るなど、患者側の負担は多大なものである。本研究では、組織傷害の初期段階において一過性に発現するテネイシン-C(TN-C)に対する抗体が、分子イメージング診断法に有用か否かを検討している。前年度から引き続き、大腸菌やin vitro合成系を使用した可溶型一本鎖可変領域断片(ScFv)型抗体の発現系の構築を目指してきたが、抗体量が非常に微量であるため種々の解析ができない。次に我々は他の抗体作製方法として、抗体医療ですでに構築されている哺乳類由来培養細胞株を用いた分泌型抗体の発現構築を試みた。その結果、大腸菌発現系に比べ抗体が多く発現していることがわかった。さらに、現在、通常のFBS添加液体培地から動物由来蛋白質成分が非常に少ない無血清液体培地による培養法へ馴化する工程に移っており、抗体発現の減少や細胞の障害等なく作業は進んでいる。このほかに、我々はさらにもう2種の改良型抗体の遺伝子構築を完了しており、作製準備に取りかかっている。ScFv型抗体と同様の系で発現構築を試みる。
3: やや遅れている
前年度行ってきた大腸菌・セルフリーによる抗体作製法をいったん中断し、ヒト培養細胞株HEK293を用いた抗体作製法へ移行した。現段階では、1)ヒト細胞に対する抗体遺伝子のコドン最適化、2)HEK293細胞への遺伝子導入、3)安定株の樹立・保存、4)無血清培地への馴化、まで終了している。各段階を以下に説明する。1)について、コドンは生物種で使用頻度がことなるため、ヒト細胞で使用頻度の高いコドンを採用した配列の合成を受託会社に依頼した。2)は、遺伝子工学的に合成遺伝子を発現ベクターへ組み込み、精製したプラスミドをHEK293細胞へ遺伝子導入した。3)について、当該プラスミドはエピゾーマル型であるため、抗生物質存在下で継代すればプラスミドを持った細胞のみ選択されていく。およそ1週間で細胞の増殖率が正常に戻ったため、大量培養して凍結保存用を作製した。4)について、10%FBS入りDMEM培地からスタートし、継代時にSerum Free Medium II(SFMII)との比率を順次変更し(DMEM:SFMII=9:1、4:1、3:2、2:3、1:4、1:9)、最終的にSFMIIへ馴化した。疾患モデルマウスの作製については、心筋特異的に発現しているミオシンH鎖由来ペプチドを背側皮下に注入することで作製可能な自己免疫性心筋炎モデルを採用している。これについては、注入した全てのマウスで心筋炎に特徴的な組織像となる炎症細胞浸潤が広範囲に認められた。さらに、その領域を重複するようにTN-Cが発現していることを再確認した。これらより、疾患動物モデルの作製は完成した。抗体調製に時間を費やしているため、抗体の機能解析や動物注入実験は若干遅れているが、抗体調製完了後、速やかに動物実験へ移行可能である。
抗体調製については、1)蛋白質成分フリー液体培地へ馴化、2)ラージスケール培養、3)抗体精製、へ順次取り掛かる。1)に関して、現在使用中の無血清培地は通常のFBS入り培地に比べてタンパク質含有濃度が低いため、達成状況を考慮して省略するか進行するか判断する。2)、3)の工程に関して、リッタースケールでの培養を行い、6×Hisカラムによる精製を試みるが、血清由来の蛋白質がほとんど含まれていないため精製度の高い抗体が容易に得られる。その後、精製した抗体を用いて、4)BIACOREによる結合力測定、5)抗体の蛍光標識、6)疾患動物モデルへ標識抗体を注入・集積解析、7)同位体標識への移行、を目指す。以下に各項目を説明する。4)について、完全IgG型抗体(KD=4×10^-12)からScFv型へ変換する際、抗原に対する結合力が低下する可能性があるためBIACOREにより解離定数を決定する。5)について、抗体のC末端のシステイン残基は蛍光色素や同位体と結合させるトレーサーを配置させ、各実験に合わせた標識抗体が調製可能である。まずはFITCなど一般的な蛍光色素を用いて作製する。6)について、作製した蛍光抗体をマウスの尾静脈から注入後、in vivo蛍光イメージング装置にて撮像し、各臓器の集積・安全性・半減期等を解析する。ここまでの結果をふまえて研究協力者と密に議論し、異論等なければ7)のステップへ移行する。同位体標識・SPECT撮像実験の工程は他大学で行われるため、研究協力者と定期的な報告会等を行う予定である。ScFv型抗体に加え、二価改良型抗体も同様の手順で取り掛かる。
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