研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は、放射線と併用することにより放射線増感作用を呈する分子標的薬の機能や抗腫瘍効果のメカニズム解析をすることである。当方は各種ある分子標的薬のうち、ある細胞周期阻害剤Aに注目した。細胞は、細胞周期によって放射線に対する増感効果が異なり、M期にある細胞が最も増感作用が強く現れることが一般に知られている。この薬剤Aは、細胞周期をM期で止める(arrestする)特徴をもつため、腫瘍細胞の放射線増感効果を高める可能性が考えられたそこでまずその薬剤Aが本当に放射線増感作用を持つかどうかを、in vitroの実験で検証することとした。フローサイトメトリーにより、その薬剤Aがいかなる濃度でどれくらいの時間曝露させることによりHela細胞の細胞周期を最も効率よく止めることができるのかを検証した。その結果、細胞周期を止めるための至適濃度(8nM)、至適曝露時間(12hr)が同定できた。その後、その条件で薬剤Aと放射線を併用することによって本当に放射線増感作用が得られるかどうか、Clonogenic assayによって検証した。その結果、8nMの濃度で12hrの薬剤A処理の後放射線照射をすることで、予想通り、Hela細胞で放射線増感作用を示すことが分かった。また一方、Fucciという蛍光プローブを導入した細胞(Fucci細胞)を作成した。Fucci とは、生細胞の細胞周期の進行をリアルタイムに観察することができる蛍光プローブであり、細胞の増殖や分化、がん細胞の挙動などの生命現象における、細胞周期の時間的、空間的なパターンをイメージングすることが出来る。このFucci細胞を薬剤Aに曝露させたところ、薬剤に曝露させない細胞と比して、緑色で長時間とどまる細胞の割合が明らかに増えた。つまり、この薬剤Aが実際にM期でarrestしていることが視覚的にも確認された。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、本年度は、in vitroの実験を行っている。来年、再来年度は、in vivoの実験を行っていく予定である。
今後は、担癌マウスを使ったin vivoの実験で、分子標的併用放射線治療の腫瘍縮小効果を検証する。また、学内研究協力者と共同で、薬剤Aならびに放射線を加えた際の腫瘍細胞内における低酸素、細胞周期、DNA損傷の状態を光イメージング技術、前述のFucci細胞等を用いて検証する。また、分子標的薬の開発をしている薬学系、工学系の研究室、創薬企業とも共同研究を行い、放射線治療を増強させる可能性を持つ新規分子標的薬の開発も視野に入れたい。
次年度は、実験動物(マウス)、生化学試薬、ガラス・プラスチック器具に対し、70万円、国内旅費5万円、海外旅費15万円、その他10万円の使用を予定している。
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