がん幹細胞が放射線感受性に及ぼす影響を明らかとするため、頭頸部癌を対象に研究を行った。頭頸部癌のうち、中咽頭癌の一部はHPV感染が要因となって発症することが知られており、またそれらの症例は放射線感受性が良好であることも示されている。HPV感染を伴う中咽頭癌は、がん幹細胞の数が、比較的少数であることが予想されたため、実際にがんセンター東病院で根治的放射線治療を施行された中咽頭癌患者61例の生検標本を用いて、免疫組織学的にがん幹細胞マーカー発現と、治療効果の相関について検討した。結果、56%の細胞にHPV感染のsurrogate markerであるp16の発現が認められ、75%にがん幹細胞マーカーであるCD44蛋白の発現が認められた。p16陰性症例は全例CD44蛋白陽性であり、発がん要因ががん幹細胞マーカー発現に影響していることが示唆された。がん幹細胞マーカーの発現パターンの解析を行ったところ、がん細胞集団はいずれもびまん性にマーカーの陽性所見を示しており、マーカーの免疫組織学的発現が必ずしもがん幹細胞を示唆する訳ではないことも明らかとなった。その結果を踏まえ、現在ヒト食道癌細胞株を用いた照射実験において、がん幹細胞マーカーの発現(蛍光抗体法やwestern blotting法)と放射線治療後の生残率の相関に関しても検討を進めている。また、治療成績との相関では、CD44発現陰性例の3年局所領域制御率は93%であったのに対し、陽性例は71%で、がん幹細胞マーカー発現が治療成績に有意に相関していた。また、p16とCD44の発現を組み合わせた結果、p16陽性でCD44陰性症例の局所領域制御率が最も良好で、p16陰性でCD44陽性症例の成績が最も不良であり、HPV感染を伴う中咽頭癌にはがん幹細胞マーカー発現が少なく、治療成績が良好であることが示唆された。
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