研究課題
本研究は、既に得ている単回照射での生物効果を分割照射で評価し、転移抑制から見た至適分割照射法の提案を目的とする。その手法として不均等分割照射法について検討する。初年度は、X線及び炭素線による均等線量分割照射後の生物効果の違いを細胞実験で調べた。X線では分割回数の増加に伴い生物効果は減弱し、その減弱は細胞致死よりも転移能抑制で顕著だった。一方、炭素線では1回線量の減少による顕著な転移能の亢進は見られなかった。今年度は、まずマウス移植腫瘍モデルで均等分割照射の効果を調べた。その結果、分割回数の増加にともない腫瘍内細胞致死効果の減少及び肺転移数の増加傾向が観察され、その程度は炭素線に比べX線で顕著だった。炭素線は低LETであるビーム入口部でもX線より強い細胞致死効果、肺転移抑制傾向を示した。次いで、線量/線質配分を替えた不均等分割照射の効果を抗腫瘍効果と転移能抑制効果から調べた。その結果、初回に高線量、2回目に低線量X線を照射した群が、他の線量配分群(均等分割及び1回目小線量+2回目高線量)に比べ、どちらの生物効果においても優れていた。特に、初回高線量照射の有効性は細胞致死よりも転移能抑制効果で顕著であった。一方で、1回目炭素線、すなわち高LET照射群では、1回目X線(低LET)照射群に比べ顕著に細胞生存率及び転移能が減少した。この効果も1回目低線量域で両線質間に顕著な差が見られ、転移能抑制においてその差が特に顕著だった。以上の結果から、1)分割照射による抗腫瘍効果及び転移抑制効果がX線よりも炭素線でより顕著であることが、細胞実験だけでなく移植腫瘍モデルでも明らかとなった。また、2)初回高線量あるいは初回高LET放射線照射のように、最初に強い生物効果を与える照射法が細胞致死効果のみならず、転移能抑制効果の観点からの効率的な治療である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の細胞を用いた分割照射実験の結果を受け、今年度前半は移植腫瘍モデルを用いて抗腫瘍効果と転移抑制効果を評価し、炭素線の有用性がin vivo実験でも明らかとすることができ、予定通り均等分割照射による線量依存性及び分割回数依存性についての実験を、細胞・動物両方の実験系で完了することができた。また、今年度の後半では分割照射における線量及び線質の配分を変えた不均等分割による抗腫瘍効果と転移能抑制効果を細胞実験にて検討し、初回高線量照射が均等分割及び2回目高線量照射よりも効果的で有り、その効果は細胞致死よりも転移能抑制の点でより顕著であることを明らかとした。さらに、線量だけでなく、高LETと低LETのように線質の配分を変えた際の効果についても細胞実験で検討し、初回に炭素線を照射する事で、X線同士の組合せに比べより顕著に細胞致死及び転移能抑制を導くことができる事を明らかとしており、予定通りに知見を蓄積できている。最終年度である2014年度は、これまでの成果を踏まえ1)分割回数を増やした場合、及び2)移植腫瘍モデルを用いた不均等分割照射の効果を調べ、当初予定した研究計画を完遂可能であると考え、区分を「おおむね順調に進展している。」とした。
1年目、2年目の成果を踏まえ、研究計画通り進めていく。最終年度は、以下の2つの課題について行う予定である。【課題1】既に1-2分割照射においてその有用性が示されている初回高線量照射について、分割回数を増やして検討を行う。可能であれば、5回程度の分割回数まで行いたいが、この5月より筑波大学に異動したこともあり、実行可能な分割回数で実験を行う。【課題2】細胞実験で有用性が確認されつつある初回高線量不均等分割照射について、マウス移植腫瘍モデルを用いて検討する。最終的に、総線量、分割回数、1回線量、線量配分、などの分割照射で重要となる因子の得られた生物効果に対する寄与を均等分割照射と比較検討し、加えて炭素線を組み合わせた結果から、線質配分の寄与についても明らかとする。以上の研究成果から、腫瘍制御だけで無く、転移能抑制(遠隔転移制御)の観点から、どのような分割照射プロトコルが最も効率的であるかを提案することが可能になると考える。
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Journal of Radiation Research
巻: 55 ページ: i137-i138
10.1093/jrr/rrt185