研究課題/領域番号 |
24791361
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
木村 禎亮 独立行政法人国立がん研究センター, 臨床開発センター, がん研究特別研究員 (10585029)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | テクネチウム / 腫瘍内低酸素領域 / イメージング / SPECT |
研究概要 |
がん治療成績の向上をめざし、本研究では新規分子設計戦略に基づいた汎用性の高い低酸素領域可視化SPECTプローブの創製を目指している。申請者が提案するプローブの分子設計は、低酸素細胞内で高頻度に生じる還元代謝によりプローブ自身が解裂することで物理的性質を変化させ、細胞膜透過性が変化し、結果的に細胞内に蓄積する独自の設計である。さらに、核種としてTcを用いるため、高い汎用性が期待される。 本設計に基づき、様々なテクネチウムリガンドの合成の検討を行った結果、チオエーテル型Tc錯体、Tc-SD22、Tc-SD40、Tc-SD41、Tc-SD43、Tc-SD46、Tc-SD48、及び、エステル型錯体Tc-SD32を得ることに成功した。次に、得られたTc錯体を用いて低酸素細胞への集積性を評価した。評価方法は低酸素細胞へのプローブの集積率に対する常酸素細胞の集積率の比(H/N)を比較した。結果は、チオエーテル型錯体はいずれもH/Nが1よりも小さかったことから、これらのプローブは低酸素細胞選択的な集積は示さないと考えられた。解析の結果、これらのプローブは低酸素細胞内で選択的な還元代謝を受けるが、その後Tc錯体がトランスポーター等を介して細胞内から汲みだされ、結果的に低酸素細胞への集積率が低下したと考えられた。一方、Tc-SD32は低酸素細胞に高い集積性を示すことが明らかとなった。LC-MSを用いて詳細な分子構造の変化を検討したところ、Tc-SD32は分子設計通り、低酸素細胞内において還元代謝を受け、水溶性が大幅に上昇し、細胞内にとどまっていることを明らかにした。このような分子メカニズムで低酸素細胞集積性を示すTc錯体はこれまで知られていないことから、非常に独自性の高い有用な方法論を確立できた。現在、Tc-SD32をリード化合物とし、in vivoでのプローブの構造最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において考案した低酸素プローブの分子設計はこれまでの低酸素プローブとは異なる集積機序に基づき低酸素細胞に蓄積するプローブである。本年度で達成したことは、低酸素プローブとなる分子の設計、候補化合物の合成、in vitroでのスクリーニングや、LC-MS, NMR等の様々な機器を用いた分子設計の検証である。その結果から、本研究で考案した低酸素プローブの分子設計が妥当なものであり、かつ有用性が高いものであったことを示すことができた。これらの結果については、国内・海外での学会で報告しており、また本研究成果の一部を学術論文へ投稿し、採択された。 現在、In vivoイメージングを行うためにTcプローブの体内動態の最適化に着手しており、Tc-SD32をリード化合物とし、さらに様々なプローブを合成・標識し、それらについて担癌動物を用いたin vivoスクリーニングを実施している。現在、得られている知見から有用と考えられる候補化合物が見つかってきており、様々な検証を行っている段階である。また、in vivo実験の評価で必要とされる、免疫組織学的評価のための予備検討や、小動物SPECT撮像を行うための条件検討といった基礎的検討もすでに終了していることから、研究の目的で示した計画はおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている、担がん動物を用いたin vivoでの評価・スクリーニングを行っていく。具体的には、分子設計に基づき合成した担癌動物を用いて、低酸素選択的集積性を示すプローブの体内動態の経時的変化を調べる。このようにして得られたin vivoのデータを新たな分子設計にフィードバックし、プローブの分子構造の最適化を行っていき、適切な体内動態と、腫瘍集積性を両立させたプローブを見出す。最適化されたプローブは小動物SPECT装置によるイメージングを行い、画像から得られる定量値と実測した体内動態分布との比較を行う。また、取り出した腫瘍切片をプローブの腫瘍内分布を確かめるべくオートラジオグラフィの撮像するほか、抗ピモニダゾール抗体(低酸素マーカー)、CD31(血管マーカー)等により染色し、組織学的解析を行い、プローブがインビボにおいても低酸素領域に集積しているかを確認していく。 このようなプロセスで見出された低酸素SPECTプローブについて、キット化についての検討を行う。そのうえで、メラノーマや扁平上皮癌といった放射線感受性の異なる腫瘍を移植した動物を作成し、低酸素領域の画像評価、及び組織学的評価を行い、低酸素プローブの集積量の違いを確認したうえで、放射線治療実験を実施する。種々の放射線量を低酸素プローブの集積性の異なるモデル動物の腫瘍に照射し、経過観察を行う。経過観察時には、腫瘍体積の増加やマウス生存率の変化、18F-FDGの取り込みといった項目を、未照射群をコントロールとして比較し、データを取得する。また、アポトーシスやネクローシスといった放射線治療の影響と推定できる細胞死を、それぞれTUNEL染色やアネキシンV、HE染色等を用いて組織学的に解析し、腫瘍組織に対する放射線治療効果を調べる。得られた放射線治療に対する反応とSPECT画像により診断された低酸素領域との相関を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として購入を計画している物品は、合成実験、組織培養実験、動物実験やSPECT装置を使った検討を遂行する上で最低限必要なものである。インビボイメージング剤の開発、並びに放射線照射の検討に用いる実験動物にはC3H/He(1000円/匹)やヌードマウス(5000円/匹)を用いることから、必要経費を計上した。また、本研究には99Mo/99mTcジェネレーターが必須であることから、必要経費を計上した。 年2回程度の国内学会での成果発表、および年1回程度の国際学会での成果発表は研究成果を客観的に第三者により評価してもらううえで必要である。
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