研究課題/領域番号 |
24791365
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
田中 隆宏 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (30509667)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 吸収線量 / 絶対計測 / グラファイトカロリーメータ / 治療用電子線 |
研究概要 |
当研究の目的は、治療用電子線の吸収線量の絶対計測が可能な線量計(薄入射面グラファイトカロリーメータ)の開発である。グラファイトカロリーメータは主に検出器と温度制御・測定系で構成され、本年度は、検出器の設計及び開発を行った。 グラファイトカロリーメータは、検出器の一部である受光部の電子線吸収による上昇温度計測を基礎とした吸収線量の絶対線量計である。電子線吸収による受光部の上昇温度は数mKであり、誤差1%程度の精度で計測するためにはμKオーダーの温度制御・計測が必須となる。そのため、受光部を真空槽内(mPaのオーダー)に設置する必要がある。しかし、通常の真空槽では飛程の短い電子線に対して透過率が低く、電子線を受光部に到達させることが困難となる。そこで、高密度グラファイトを約50μmの厚さで蒸着(CVD法)させたグラファイトを使った真空槽の設計・開発を行った。また、検出器表面から受光部までのグラファイトの厚さを極力薄くするため、大気圧によるグラファイトの変形を有限要素法により計算し、断熱性(真空保持)と電子線に対する透過性を両立した最適な構造となるよう設計した。 その結果、最薄部の厚さ(受光部と検出器表面間距離)を7mm以下の真空槽を開発し、真空断熱に必要なmPaオーダーまで減圧することと、大気圧による変形が有限要素法による予測の範囲内であることを確認した。また、蒸着を施していない通常のグラファイトでは数kPaまでの減圧にとどまり、真空断熱に必要な圧力まで減圧できないことを確認し、本研究で製作した薄膜蒸着グラファイトの有効性を示す結果が得られた。 さらに、受光部の断熱性を高めるため、受光部に2重の熱シールドを施した。具体的には、受光部を熱シールド内で細い樹脂製ワイヤーで吊る構造とした。組立後、内部構造をX線撮影により確認し、組立方法に問題がないことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最も重要な課題であった、電子線に対する十分な透過性と、受光部の断熱性を両立した検出部の開発には成功し、研究計画はおおむね順調に進展している。本年度の研究計画を遂行し、以下の2つの課題が見つかり改善を図っている。 一つ目は、組み立てに伴う誤差の問題である。二重の熱シールド内に受光部を組み込んだ後、X線撮影により内部構造を確認したところ、想定を超える組み立て誤差が生じていることが分かった。これは部品を組み合わせる際に、部品同士がスライドしてしまうことに起因していることが分かった。そこで、この熱シールドの一部に溝を施すなど、組み立てる際にスライドしないような構造になるように設計を見直し、改善を図っている。 もう一つは、薄膜蒸着グラファイトを真空槽に固定するためのクランプの強化である。高密度グラファイトを蒸着させたグラファイトを真空槽に固定するためにはクランプが必要となるが、グラファイトにクラックが生じないよう簡素化したものを設計した。しかし、固定が弱く余分な組み立て誤差の原因となることが分かった。そこで、クランプとグラファイトの間に緩衝用のゴムを入れるなどの対策を施し、固定を強化する。 以上のように、本年度の研究計画の遂行により課題は見つかったが、本研究の最大の課題である電子線に対する十分な透過性と、受光部の断熱性を両立した検出部の開発することはできた。また、課題に対する解決策も見出しており、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って遂行する予定であるが、本年度の研究計画を遂行し明らかになった二つの課題(熱シールド部と締結部の改良)への対応を早急に行う。解決策を施した設計はまとまっているので、次年度の初旬を目途に解決を図る。 この課題解決と並行して、次年度に計画しているグラファイトカロリーメータの温度制御・測定系の開発を進め、年内を目途に開発を行う予定である。その後、検出部と組み合わせた動作テストを研究計画通り実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金(次年度使用額)が生じた主な理由は、検出器の開発に必要な部品の設計を全て自分で行うことにより開発費を予定より抑えることができたためである。当該助成金は、本年度の研究計画遂行によって明らかになった課題の解決(熱シールド部の改良とクランプの強化)のために使用する予定である。
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