X線と物質との相互作用、特に光電効果は高い原子番号をもつ金属で顕著となる。ここでは金属ナノ粒子を含む放射線増感剤を開発することを目指している。ナノ粒子にがん細胞への選択性を持たせれば正常組織の線量を抑えてがん細胞にだけ線量を集中させることが可能となる。そのための基礎的な物理データを取得することが本研究の目的である。過去に報告されているモンテカルロ計算や細胞実験ではなく実際の線量測定を試みる。 金属材料からの散乱電子線の測定が主要なテーマである。通常困難であると考えられているサブミリスケールの線量測定を、比較的エネルギーが高く1-2mm以上の飛程の2次電子に注目することで行う。医療用リニアックからのX線を高感度でかつ高原子番号の物質を含まないガフクロミックフィルムを用いて測定した。金属板、金属薄膜、金属ナノコロイド溶液の材料を用いて空間的な配置を工夫したフィルム測定系を構築した。各種補正係数を求めるモデル計算(簡易なトイモデル及びモンテカルロ計算)と組み合わせて2次電子の発生量とエネルギー分布及び局所線量を推定した。 基本的な線量測定の方法論として、低線量においてフィルムの平均濃度の変化は非常に小さいがフィルムの関心領域の濃度ムラの変化は相対的に低線量まで検出可能であることがわかった。フィルム測定に関わる各種の不確定性と再現性を評価した。金属ナノ粒子の種類・粒径・濃度をパラメータとして各依存性を測定し、モデル計算の妥当性と適用範囲を検証した。 金属コロイド溶液中での放射線の間接作用に関係する活性酸素種の発生量も合わせて評価した。活性酸素種の検出には蛍光試薬を用いX線照射後に蛍光強度の測定を行った。金属ナノ粒子の粒径や濃度の依存性を含め定量的評価は今後の課題である。 継続して成果を論文としてまとめる作業を進める。
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